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映画「新聞記者」に思うこと(その2)

 現在の政界でくすぶっている公文書の改ざんや隠ぺいを取り上げた話題の映画「新聞記者」。前回も紹介した2004年公開の山川元監督作品の「東京原発」が重いテーマをコミカルに描いているのに対し、全編シリアスな作りになっています。こうした作品にありがちな無責任で能天気なな政治家は一切登場しません。

 主な舞台は新聞社と内閣情報調査室(内調)。内調は、内部告発で漏れた「知られたくない真実」を隠すため、ライバル新聞の毎朝新聞や雑誌を取り込み、東都新聞のスクープを「誤報」とでっち上げます。世論の形成のために、調査室内にネット専用の職員を配し、ニセのSNSを拡散する徹底ぶり。国家を動かす公権力の情報操作、世論操作の描写は不気味で、恐怖さえ感じさせる演出です。物語は、獣医学部新設に消極的だった元文部事務次官の前川喜平氏が在職当時、出会い系バーに通っていたことを全国一律に報じた読売新聞風の異例な扱いから始まり、公文書の改ざんに手を染めされられた現役官僚が自死に追い込まれるなど、現実の出来事が随所に散りばめられていました。

 ちなみに、前川氏の“出会い系バー通い”の記事のネタ元は政府サイドのリークだったと多くのメディアが報じています。映画の内閣情報調査室や公安のように、官僚のプライベートも調べ上げているわけです。で、「弱み」をネタに政府にとって不都合な記者会見を取りやめるよう❝取り引き❞を持ちかけた陰湿な手口も批判を浴びましたね。映画では物語後半、「誤報」との情報操作に加担する架空の毎朝新聞と対照的に、東都新聞のスクープを“後追い”する新聞社として、読売新聞、朝日新聞、毎日新聞が実名で登場するのも新鮮でした。

 映像も興味深いです。永田町や霞が関周辺に詳しい方は少数派でしょうが、新聞記者・吉岡(シム・ウンジョン)が物語佳境の終盤に内閣府に出向中の外務官僚・杉原(松坂桃李)を探し回るシーンでは、国会議事堂を囲むフェンス沿いを疾走し、豪華なマンション風の議員会館前の交差点も登場。煌々と明かりの灯る夜の官庁街も度々描かれます。現実感を出すための演出でしょう。
 駆けつけた記者・吉岡と信号を挟んで対峙する杉原は、上司の“脅し”に屈服するのか、正義を貫くのかー。目の前のスクリーンを見ながら、山口百恵の「美・サイレント」を思い浮かべる自分がいました。本作の鑑賞前に「コンフィデンスマンJP」も観たのですが、一方は気持ちよく騙される爽快感、もう一方は陰湿な騙しに不快感MAXの対照的な作品でした。

2件のコメント

  •  政治の世界やマスコミは、いつか使えるようにとネタをそれぞれたくさん集めているでしょうからね。表に出すのは最後の手段、通常はその前の裏取引で勝負がついていることが多いのだと思います。表に出すときは「ここぞ」というタイミングを狙ってのことでしょうからね。

     昔は多少のことは握りつぶしたり、世間でも問題にしなかったりということが多かったのかもしれませんが、今はちょっとしたことでもおお事にされてしまいますからね。

     個人的には不倫や収賄などで問題視するより、本業をきちんとしてくれればいいと思います。隠ぺいや情報漏えい、不当な癒着(この辺は収賄とも絡むので難しいですが)などを問題視して、本業をきちんと考えます。
  • 矢指 嘉津 様
     コメントありがとうございます。
     “前田っち(出会い系バーでの前川氏のあだ名)”)のスキャンダルの場合、彼の会見を止めさせようというのが政府にとっての「ここぞ」だったわけですね。もしかしたら、過去にいくつか成功例があったのかもしれません。“事実は小説より奇なり”の出来事が多過ぎる世の中に呆れることしきりです。
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