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読めない心4

https://kakuyomu.jp/works/16817330656927273343/episodes/16818093073626391163


 決断を迫られた際、多くの人が総合的に変化の少ない方を選ぶだろう。なるべくストレスが掛からないよう、今までの生活から逸脱しないような道を進みたくなるのだ。例えば高校受験、例えば就職活動、例えば結婚……人生の岐路において、凡人は自らの意思決定を放棄する傾向にある。友人が、教師が、親が、恋人が言ったから。彼、彼女の言う事を聞いていれば諍いが起きず普段通りに生きていける。人は往々にして、自らの人生を他人に委ねる。その方が楽だから、取り巻く環境の変化を最小限に抑えられるから。相談などといってあたかも能動的な体を装い責任から逃れる。これは多くの市民に見られる悪癖である。



 俺が迫られた選択、どちらが楽か、変化が少なかったかといえば、ウィルズの要求を突っぱねてヤーネルと共闘する方だろう。なにがあってもヤーネルならなんとかしてくれるという信頼感もあったし、俺の目的を知る唯一の人間でもある。彼を失った場合、この先ずっと一人で考え、実行していかなくてはならない。果たしてそれで上手くいくのか、俺は目的を達成できるのか、そんな不安が先立つ。もし夢半ばとなっても、受け身である分気が楽だ。



 俺もこれまで例に漏れず、ずっと、他人に人生を委ねてきた。困難な時は誰かの言う通りにしてきた。それができない状況に置かれ、この時、改めて自分の弱さが浮き彫りとなった。どちらを選ぶべきか、どちらがネストにとって良い判断となるか。その観点でいえば明白であるのに、答えを出せない、出したくない。俺の決断で、全てが変わってしまう。それに耐えられるかどうか、これは、覚悟の問題だった。

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