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第8話 神学校へ4

https://kakuyomu.jp/works/16817330656927273343/episodes/16817330657843288148

 ズィーボルトは俺以外の人間も概ね好意的に招き入れられ、俺と同様の品評がなされていた。端的にいえば、変わり者だが面白い貴族様である。





「面と向かって“庶民”なんて言われちまって最初は気に食わねぇと思ったけど、存外いい奴だよあの人。別段何かしてくるわけでもないし、それどころか、この前仕事まで手伝ってくれたぜ。しかも筋がよくってさ。貴族の道楽かもしれねぇけど、こっちに得があるんなら結構な事だよ。給料はきっちり受け取っていったんだけども、俺は嫌いじゃないぜ」



「うちも、最近家にガタがきてるなーなんて言ってたら次の日に突然あの人がやって来てさ、脆い部分全部直してくれたんだよ。なんなら前より頑丈になったくらいさ。金払うよっていったら遠慮なくもっていったけども」





 ズィーボルトは好奇心が強くなにかと首を突っ込んでいったわけだが、その特徴的な語りと能力の高さ。そして厳格な金銭感覚が皆のイメージする貴族像とかけ離れており、そのギャップが好感度へと繋がったわけである。これについて本人も気が付いており、後年、自著の中で「庶民の感性というのは下品なもので私には理解しがたい。相互理解は不可能であり、寄り付かぬ方が賢明だろう」と記していたが、これはご愛嬌というかお約束のようなものであり、多くの人間が本心だと思っていなかった。というのも、彼は終生に渡って貧民層に寄付などを行っており、実際に炊き出しや現場の統制、医療行為などを行っていたからである。諸学百般に秀で、芸術、建築、医療手術まで収めている彼はまさに万物の天才であり、その才能を人々のために用いる聖人であった。

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