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第9話 神学校へ5

https://kakuyomu.jp/works/16817330656927273343/episodes/16817330657908785244

 不倶戴天の敵であるエッケハルト・フライホルツの言葉に耳を貸し、あまつさえそれを肯定するなど急転同地の出来事。ズィーボルトの不可思議な振る舞いに俺は自身の正気を疑う。度重なる勉学のストレスにより精神の均衡を失い幻聴、妄想の症状が誘発されたのかと慄いた。正気を失えば縁も所縁もない異世界で第二の生を受けるなどという理不尽極まりない超常的現象の渦中であってもくよくよと悩む事なく楽しいセカンドライフを謳歌できたかもしれず、むしろそうであったらと今なら思わなくもない。けれども実際には狂気でも聞き間違いでもなく、ズィーボルトの口から「一理ある」という利敵行為にも匹敵する発言が飛び出したのである。言質が取られた以上、ズィーボルトには今後の教育方針について修正する義務が生じた。話しを合わせるために頷く逃げのアグリーなど貴族にはない。有言実行の精神があってこその特権階級であるから言った以上やらなければならないし、やらないのであれば言うべきではないのだ。もしそれができなかったとあれば貴族の名折れとして面汚しの誹りは免れず、生き恥を晒すのをよしとするか名誉挽回を求めて死地へと赴くかのいずれかしかない。つまりこの時のズィーボルトはとんでもない軽率な言動をとってしまったという事となる。こんな片田舎の、取るに足りない小人の戯言に対して。

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