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なぜここにいるのか ~溺死者たち

 多分、この話を読んだ人の大半は、私の頭がおかしいと思うだろう。そう思いつつ、この文章を書いている。
 更新があからさまに遅くなっているのも、ためらってばかりいるからだ。

 私の家には、ちょっと変な伝説がある。
 かつて明治維新を起こしたある偉人が、実は父方の一族の出身者であるという伝説。父方の一族は、行者(つまり山伏)を生業としていた。
 そして、霊能者だった母方の曾祖母の物語。京都で活動し、数多くの予言で人を助けたが、逆恨みをされ、非業の死を遂げたという。
 どちらも昔話だ。問題の偉人は幕末から明治初期の人物。曾祖母は明治時代の人だ。当然、一度も会ったことはない。
 だが、なんらかの能力が遺伝しているという可能性はある。

 次々に有力者がやってくる今の異常事態も、それで説明がつくのではないか。

 なぁに、ちょっとだけ予想外にスケールの大きい来訪者があっただけのことではないか。普通に応対して、正しい答えを言えば、それで良い。
 それで、世の中を多少なりとも良い方向に誘導できれば、結構なことだ。

 全体からすれば、私のところに予言を聞きに来るのは、ごく一部の来訪者に限られた。その他は、漫画だの小説だの映画だのの企画を貰いに来る人たちだ。
 ほとんどの人にとって、私はあくまでも、ただのライターであり、腕が良いだけのことだった。
 私はずっと無料で人に企画を与えていたのであるが、これは、ゲーム会社にコネを作って入社することが目的であり、結局は自分の利益のためにやったことだ。
 大きな、歴史を変えるような仕事をするつもりはなかったのである。

 ところが、それでは済まされない事態が起きた。

 2001年のコミケの出来事だったと思うが、会場をうろうろと散策しているうちに、やけに溺死者が多いことに気が付いた。
 溺死者とは、もうすぐ溺死する運命にある人という意味だ。
 息が苦しくなって、胸が冷たくなって死ぬ。そういう情報を持った人と、何度もすれ違った。それも若い人ばかりだ。
 一つの心当たりがあったので、思い切って通りすがりの人に話しかけてみた。そして、出身地を尋ねてみた。ひょっとして、あなたは東北地方出身ではないですか?
 回答は推測どおり。
 彼らは宮城県、岩手県、福島県に集中していた。

 もう疑いの余地はなかった。
 たくさんの人が一度に溺死する災害と言えば、津波だ。
 歴史的に津波が起きやすい場所と言えば、東北地方の太平洋沿岸ではないか。そう当たりをつけて聞き込みをしたところ、回答はやはり、東北に集中している。
 津波が来るのだ。
 それも、巨大なヤツが。

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