たとえば、誰かと一緒に仕事をすれば、その人にコネのある別の人物から仕事を依頼されることがある。
これはよくある話だ。ライター業界というのは、それで仕事が回る側面が大きい。
小さな仕事から始めて、コネを手に入れて、儲けの多い仕事を受注する。これもいかにも、ありそうなことだ。
だが、私のところに話を聞きに来る人は、際限なく大物になっていった。
00年代の初期、アメリカ人の機関投資家が来たので、今後アメリカで起きる金融危機について話した。
具体的には、リーマンブラザーズ社が潰れてしまう危険についてだ。
すると、アメリカ人の上院議員がやって来て、詳しく話を聞かせてほしいと言われる。
機関投資家と上院議員はコネがあるから、話が伝わるのはわかる。
しかし、そんな立場の人間が、なんでわざわざ私のところに話を聞きに来るのか。
来訪者たちにそのことを尋ねてみると、意外な答えが返ってきた。
世界には、稀に、本物の予言者が現れることがある。
予言者は未来に起きることを言い当て、歴史を変えることもできる。
私たちは、あなたが予言者ではないかと思っている。だから来た。
えーっと……
なんだそれは?
予言者? そんなものを本当に信じている人がいるのか。
そういえば旧約聖書にも、予言者ヨセフの話があった。民族と人種を問わず、予言者の物語はしばしば歴史に出現する。ということは、実在するとは思うが。
言われてみれば、私は論理的な理由とか根拠をすっ飛ばして、いきなり結論にたどり着くことがある。しかも、必ず正しい。
これは、どうも誰でもできることではないようだ。
これというコネのない普通の人間が、政治家に自分の考えを伝えて、それを実際の政策に反映させようとした場合、膨大な手間がかかる。
どこかの政党に入って選挙を手伝い、自分も政治家になるか。
官僚としてキャリアを重ねて転職するか。
芸能界やスポーツの世界で国民的な有名人になるか。
しかしそれらの手間を省いて、いきなり政治に影響を与える方法が一つある。
それが「予言者として認められること」だった。
予言者というものの奇妙なことは、どんな専門家にもわからないはずの回答に、いきなり到達できるという点にある。
世界的な権威でもわからないことが、なぜか、予言者だけはわかる。
だから、耳を傾ける価値があると。
「なんだそれ」
私は困惑するしかない。
その、わけのわからない話が、この世界の真実の一片だったのだ。
こんなこと、自分の身に起きたのでなければ、とうてい信じられないだろう――
私はそう思ったし、その後、私の話を聞いた人間は、たいがい信じなかった。
これが今日にいたるまで私がずっと苦しむ原因でもあったのだ。