「冴子さんと私」26話の一年後の二人です。
今日は猫の日ということでツイッターに上げたものをこちらにも載せてみます。
少しでも楽しんでいただけましたら幸いです😄
その日の私は大分酔っていた。気分がよかったから、すごく楽しくて、気持ちがふわふわしていた。
何よりその日は大好きな冴子さんの誕生日だったから、私は舞い上がっていたのだ。きっと自分の誕生日なんかより、大切な人の誕生日の方が嬉しい。
二人でお祝いをして、プレゼントを渡して、ケーキを食べながらお酒を飲んで。
私も冴子さんも酔っていた。
「そういえば今日は猫の日でもあるんですよね」
部屋の中には冴子さんが買って来た猫グッズがあちこちで顔を覗かせている。
カレンダーのキジシロ猫が私たちを見下ろしていた。
「私の誕生日、猫の日なの。だからってわけでもないけど、子供の頃から犬より猫派なのよね」
「冴子さんも犬より猫っぽい感じですもんね」
「私は猫みたいに可愛くないけどね」
「そんなことないですよ。冴子さんみたいな猫ちゃんいたら、絶対お家にお迎えしてます」
「私も奈津みたいな猫がいたら、連れて帰っちゃうかな」
「本当ですか? ミャオー、ミャオミャオ」
私が上機嫌で猫の真似をすると冴子さんが私の頭を撫でくりまわした。その手の感触が気持ちいい。今だけ猫になれたらいいのに。猫になって冴子さんにいっぱい構われたい。
心地よくなった私はごろんと寝転がり、冴子さんの膝に頭を乗せた。来世は冴子さんの猫に生まれ変わるのも楽しそうだ。
でもでも恋人の立場も捨てがたい。
いっそのこと猫人間みたいな種族になれたら、どっちも楽しめるな、なんて妄想が広がる。
冴子さんは勝手に寝転がった私を邪険にすることもなく、優しく優しく頭を撫でる。
「ところで冴子さんは猫にならないんですか?」
私は下から冴子さんの顔を見上げた。
まつ毛が長い。唇の形がきれい。鼻筋も通ってて、意志が強そうな瞳に惹き込まれそう。毎日見ている顔なのに、何でこんなにも飽きないんだろう。
「わ、私が!?」
冴子さんは何故か素っ頓狂な声をあげてびっくりしている。カツンと軽い音が上から降って来た。冴子さんが手にしていた缶をテーブルに落としたらしい。音から察するにすでに中身は空のようだけど。
「そうですよ。冴子さんも猫になってくださいよ」
ミャオミャオと鳴き真似する冴子さんもきっと可愛い。
「⋯⋯私みたいなデカい女が猫なんて、可愛くないでしょ」
「何でですか? 冴子さん可愛いのに。大きいとかどうとか関係ないですよ」
確かに冴子さんは女性としては背の高い方だけれど、それだからって可愛くないなんてことは全くない。
どちらかと言えばかっこいいイメージだけど、私は可愛い冴子さんもたくさん見ている。
「無理、無理。私は可愛くないんだから」
「私は猫の冴子さんも見たいですけどね」
「⋯⋯きっと奈津、後悔するよ。引くと思うし」
「私はどんな冴子さんも大好きですから、それはないですよ」
「私は猫は無理」
「ちょっとだけでも無理ですか? ちょっとでいいんですよ。ニャアって」
「⋯⋯⋯そこまで言うなら一瞬ね。一瞬だけ。⋯⋯⋯⋯ニャア」
冴子さんの声帯から実に可愛い猫の声。しかもかなり本物の猫っぽい。テンションが上がった私は勢いよく飛び起きた。
「⋯⋯痛っ」
「⋯⋯たぁっ⋯⋯」
勢いよすぎて、うっかり冴子さんと頭をぶつける。
「奈津〜っ」
「ごめんなさい、大丈夫ですか?」
私は少し赤くなっている冴子さんの額を撫でた。
「大丈夫だけど、急に起き上がったらダメじゃない」
「次からは気をつけますね。それにしても冴子さん、猫可愛いかったです。もう一回やってくれませんか」
「もうやらない。一瞬だけって言ったでしょ」
「もっと猫冴子さん見たいです」
私は抱きついて、冴子さんの身体に頬をすりすりする。温かくていい香りがする。
「奈津が猫になってるじゃない」
「冴子さんも猫になればいいんですよ。ミャオミャオミャー」
「⋯⋯⋯⋯ニャァ⋯、ニャ、ニャ、ニャ」
そっぽを向きながらもリアルな猫真似をしてくれる冴子さん。うん、これはやっぱり可愛い。とても、最高に。
「冴子さん、可愛いっ!」
私はキュンキュンした気持ちが溢れるままに冴子さんを押し倒していた。
「いいですね、猫の冴子さん」
「奈津、目が座ってる。酔ってるでしょ」
「冴子さんだって酔ってますよね」
私は冴子さんの柔らかな耳朶をぺろりと舐める。
「明日はお休みですから、いっぱい猫な冴子さんと遊びたいです」
「もう奈津ったら」
呆れたようにため息をつきながらも、冴子さんの目は笑っている。
猫の日の夜が更けてゆく。