• 恋愛
  • 現代ドラマ

感謝とおまけの話

『鏡越しの恋歌』、蛇足のエピローグ編完結しました。
この物語は、穂高と玲と未唯が鏡越しに視線を交わす『若竹の視線の交錯』のシーンを私が夢に見たのをきっかけに書いたものなので、その光景をきちんとお話として閉じたいなあと感じていました。
最終話から間をあけず、ささっと書けたらよかったんですけど……ただ…今私の住んでいる場所が再びロックダウンとなってしまい、お話を書く時間がどかんと手に入ったので無事書き上げられました……はは…乾いた笑いしか出ないです…。
住む場所によって状況は様々かと思いますが、どうかみなさん、お身体をおだいじに、長い目で見て生活習慣はまだまだちょいと気をつけながらお暮らしください…!

ともあれ、時間が経っても『鏡越しの恋歌』を読んでくださる方がいらっしゃるのは、とてもとても嬉しいことでした。改めて、二人を応援してくださりありがとうございました。

次の新しい読み物もぎゃんぎゃんに書き進めているので間もなく始められる予定です。ビバ籠城生活!涙


そして、しつこく『鏡越し』より、置き場のない文字たちをここに置かせてください…。『春昼の逢い引き』エピソードにて、有働さんが穂高さんに世界旅行のお土産を贈った、と書いたんですが、その場面を詰めたくなってグアアと書いた、ちょーしょーもないけど自分は好きなやつです。↓↓

======

 ローテーブルを前にソファへ座った瀬戸穂高が、カメラより少し上方に目を向けて「もう録ってる?」と訊く。「うん、どうぞ」と小さく玲の声が答える。ぱっと表情を大げさにした瀬戸穂高がカメラに向かって口火を切る。

「はいっ、というわけでね、なんと、世界旅行を終えた有働さんからお土産をいただいちゃいましてね、やーありがたい。今日はその食レポをこの瀬戸穂高が、不慣れながらも務めさせていただきます。いや〜これは楽しみですね〜」

 ノリノリで喋る彼女を写しながら、カメラマンを担当する玲の笑いを含んだ吐息もマイクはかすかに拾う。

「えー最初にいただくのが、――こちら監督の有働さんから食べる順番全て厳格に指示されてますのでね、初めは、はい、こちら。べ……ヴェ、げ、」
「ベジマイト」

 玲が正確な名前を伝えて、

「はい、ベジマイトとおっしゃる。オーストラリア土産ということです」

にこやかに瀬戸穂高がそれを引き継いだ。そしてコスメ紹介をする美容系YouTuberのごとく、商品の後ろに片手を添えてそれをカメラへ見せてくる。

「このパッケージの真っ黄色と黒の色使い、とっても元気いっぱいで気持ちも明るくなりますね〜。どっしり感もすごくて、大容量お得って感じですよ〜。はい、開けますと、ん、こちら匂いが……うーんなんと言いましょうか、独特……。見た目はチョコみたいな感じですけどね。はい。ま、早速食べていきましょう。玲さんからパンに付けて食べろとのお達しをいただいているので、こちら、すでにパンが用意してあります。至れり尽くせりですね〜さすがですねえ。はいこちら塗って……ま、これくらいですかね。いざ、実食!」

 一口食べて、顔をしかめ、咀嚼がゆっくりになる。

「んっ……なんというか、これ……甘いの期待してたんですけど、だいぶ……しょっぱいですねー…。で、なんか、匂いがやっぱ……なんだろう、食べ物には例えられない。味は……強いて言うなら、味噌……かな、うん……そうか……。まあ、こういう食べ物なんですね、ちょっと予想裏切られましたー! はい次行ってみよ!」

 最後は無理やり明るく締めて、笑顔をカメラに向けている。

「お次はお隣、韓国からの出場です。ちょっと包装が厳重ですねえ、はいバリバリと紙を破いて……なんか臭うな? パッケージも開けていきましょ、あこれ、あ、すごい臭う、なん、これ、これ何ですか? ホ、ホンオフェとおっしゃる。お魚の切り身ということですが。あ、すごい、あの……アンモニア臭が……理科の実験しましたよね、あの臭いが、今ここに。目痛い。窓開けようか? ね、ちょっと換気して。……はい。えー……じゃあちょっとまあ食べますね。実食!」

 目をつむって切り身を口に放り込んで一瞬、目をかっ開いて、「んー…!」と悶絶し、絶句した。のろのろと顎を動かしながら、

「あ〜これは……食べる前からわかってましたけど、口に入れてもアンモニア、噛むほどにアンモニア、鼻へ抜けてくアンモニア、去ってくれないアンモニア……。食感は、こう噛み応えがあって、いい感じなんですけど、なんせ、アンモニア……。あー……これはキムチやなんかと一杯お酒やりながらだと、食が進む系の珍味ですかね……。ソジュが必要です。ソジュ飲みたい。ない? はい、ない、ということで……残りはまた紙でしっかり包んでおきましょう、匂いが漏れないように」

 傍らのグラスから水をごくごくと飲み、疲れた表情でカメラに語りかける。

「この企画の趣旨がわかってきましたよ、あたしゃ。ちょっと休憩挟みませんか? 挟ま――ない、と。はい、玲さんから続行しろとの指示が出ました。しんどい。じゃあ、次……。これ、なんでしょうか。パッケージはスタイリッシュでおしゃれなやつですけれども。どうせ――はあ。えー、北欧、フィンランドよりお越しいただきました。さ、サルミ――アッキ。はい開封〜……はあ。まず第一印象、黒いですね。飴でしょうか。すごく黒い。凶悪な顔してる。もうやだ。またアンモニア香ってるんですけど。さっきのが残ってる? 鼻やられたかな、いややっぱこれから匂ってるわ。はあ。食べるの? へーいへーい」

 彼女は嫌な顔をもはや隠さず、胡乱な目でつかのま手の中の黒い飴玉を見つめてから、意を決して頬張る。

「ぬ〜〜っこれ……出していい? だめ? んあ〜〜、これ……何? 食べ物の味じゃない、工業製品……タイヤの味する……だあ、ねえ出していい? も、だめ。慧ちゃんちゅーする? 今ちゅーしたくない? したく――ない、と。も、口んなかヨダレ出て止まんない。なんこれ。臭くて、苦くて、なんかスースーするし……やっぱタイヤだよこれ。ゴム。ゴムで出来てる。出したい、ペッてしたい。もしくはちゅーする? し――ない、と。……あとでぜってー食わせるからな。もう、飲み込むしかないですね、はい。ヨイショー!」

 苦悶の表情を浮かべて、黙り込み、それからやはり水を飲み続けている。カメラのそばからは忍び笑いの息が続き、それに連動して画面が小刻みに揺れている。

「もう許して。まだあるの? もう最後ですよね、はあ。有働さん、恨みます。最後――これで本当に最後ですね、最後は……これまた北欧の国、スウェーデンより。わたくし、北欧ってこう、おしゃれで、静かな湖畔と森とムーミン、みたいな平和なイメージを持っていたんですけどね、もう今となっては不穏な印象でしかないですよ。あーこれ、さっきのホンオフェの比じゃなく、包装が厳重ですよ。ちょ、ミイラみたいになってる、ぐるぐる巻きすぎる。これ封印解かないほうがいいんじゃない? ……まあ一応確認してみただけです、慈悲あるかなーって。解くよね〜封印解くよね〜私死ぬよね〜〜。……いや、まじこれ何重にしてんだって話。……ア? えっくっさ!!! えっもうすでに臭い!!! 怖い!!! 腐ってるよ絶対! やばくない? 続けんの、これ? 死ぬやつじゃん? これ他人事じゃないよ慧、やべーってまじで。……缶出てきた、缶なのにもう臭いよ! なんで!? えー……なんか缶の上部めっちゃ膨れてますけどぉ〜……内部で何らかの化学反応起こしちゃってますよね明らかにぃ〜……。商品名は、さー、さーすと……もうどうでもいいです、怖い! これ本当に開ける……? 慧ももう怖くなってんじゃん……ねえやめよう、今なら引き返せる……この恐ろしい缶のことは忘れて、私たちの村に帰ろう! 正気に返って、慧! …………わかりました、この瀬戸穂高、始めたからには最後まで、地獄の底まで拝んでやりましょう……。いざ!」

 そう言って、缶に缶切りの刃を突き立てた瞬間! 内部からビシャーッと何かが噴き出し、瀬戸穂高は絶叫した。と同時にカメラマンの玲も叫んだ。カメラの視点と音声が目まぐるしく乱れ、ぼとりと何もないフローリングの床を大写しにして止まった。ガラララ、と勢いよくベランダか何かを開けてバタバタと駆ける音がし、遠くから、「やばいやばい、えーもうくっさーー!!! なにこれ!!!」「くさいくさい!!! 何これやばい!!!」と泣きうろたえる女性二人の声がする。「部屋戻れない!!! どうすんのこれ!!!」「わかんないよ、何、何なのこれ!!!」などという阿鼻叫喚がしばらく続き……動画はこれで終わっていた。


 ――世界各地へ訪れたあと、玲へ渡したお土産とは別に瀬戸穂高のために買ったものを彼女へ託し、食レポをさせるように、と命じた結果、玲からこの動画と共に、『撮影続行不能につき、お土産食レポミッションは以上です。……まだ部屋から匂い取れないんですけど!!! 有働さん!!!』というメッセージを受け取り、私は声を上げて笑った。

8件のコメント

  • 晶さん、嫌がらせにも程があるwww
  • エピローグ完結だけでなく短編まで、、、嬉しいです!
    ほんで有働さん最高すぎる、、、(笑)

    新しいものも楽しみにまってます(^^)
  • @yuuhi-hoshina さん
     晶さんからこんな嫌がらせを受けるのも当然の報いだな、と思っちゃうくらい罪深い瀬戸さんなのでした…笑
  • @mooooochi さん
     おばかな短編も読んでいただきありがとうございます!
     有働さん厳選の世界珍味パッケージにまんまと踊らされた二人よ…笑
     よければ新しいやつもよろしくお願いします〜っ)^o^(
  • まさかひっそりと短編があったとは笑
    ノリノリな2人の悲劇に笑っちゃいました。
    有働さん、きっと鬱憤溜まってたんすね…笑
  • @mikeguu さん
     しょーもなさすぎて表には置けないけど、書いたからにはという貧乏性でここに…笑
     書き手もノリノリでした。有働さんは二人でこれくらい遊んでもいいと思うんですよね☆笑
  • この話、爆笑しましたけど二人の愛の城が大変なことになってるー!?
    やばいですよ。超ヤバですよ。川原とかで開封しないと臭いがずっと付くから最悪でございますよ。ファブリーズとかを複数個ぶち撒けざるをえない。
    悪臭さえなければそれなりに美味しいんですけどね~。その一点があるせいで普通に凶悪な食べ物、むしろ兵器ですが。
    有働さんの復讐が光り輝いてますね☆楽しそうに暮らしてて良かった!笑
  • 祟さん
     おお、祟さんはあれを実際に食した経験があったんですね!!
     ファブリーズを複数"個"とか、そんなやばさとは知らず、愛の城に兵器をぶちこんで破壊工作を仕掛けている有働さんになっていましたか…笑 まあ、そんぐらいしてもまだ全然お釣り返ってくるぐらいの存在だと私は思っています、有働さん…☆笑
     あのシリーズへの入門としては変なところから導入させてしまいましたが、最後にもう一度爆笑と安心していただけて胸をなで下ろしております笑
コメントの投稿にはユーザー登録(無料)が必要です。もしくは、ログイン
投稿する