50年にわたるアサド親子によるアサド政権が崩壊し、大統領は国外に脱出したそうだとSNSのニュースで知った。
私は2000年にシリアを旅行したことがあり、その時、見たこと、聞いたことを少しだけ書いてみたい。その時は現大統領の父親が独裁政治を行っていた。
ダマスカスは人口の多いところ。ビルには大きな大統領の写真が飾られて、田舎に行っても、大統領の大きな銅像などが立っており、おそろしかった。
村では子供たちが機関銃のおもちゃで戦争ごっこをしていて、かわいいなんていう雰囲気ではなく、これもおそろしかった。あるキリスト教(反対勢力だったかも)の町では、一夜にして大勢が殺されたが、何のニュースも流されず、人々はそのことを知っていても、何も言わない。余計なことを言ったら、殺されるからと教えられた。だから、私はシリア旅行の2週間、誰かにつけられている気がしてずっとおそろしく、いつもきょろきょろしていた。ドライブをしていくと、時々、大統領と並んで、この国には不似合いな黒眼鏡のジャンパー姿のジェームス・ディーンみたいなお兄さんの写真が飾られていた。彼が誰なのかとガイドに聞いたら、彼は大統領の長男で期待の跡継ぎだったが、バイク事故で死んだのだと言った。それは数年前のことらしいが、大統領はあまりに悲しすぎて、その写真を取り外していないのだと。(もし、私の小説を読まれた方は、似たような場面があったのに気がつかれることでしょう)
ある夕方、ダマスカスの大市場に行こうとしたら、ものものしい警戒が敷かれていて、立入禁止だった。なんでも、大統領がモスクに来るのだという。
そこにあるモスクは有名で、もとはキリスト教の教会で、キリストが次に再来する時、その塔から姿を現すと言われている。またこのモスクには「洗礼者ヨハネ」の首があると言われている。イエスも、ヨハネも、イスラム教では「預言者」なのである。
その近くにはキリストが実際に歩いたという道が残されており、ある地方の村は、キリストが話していた当時の古い言葉をいまだ使っているという。その村に行ってテープを買ったのだが、もともとヘブライ語がわからないから、比較のしようがなかったが、後である教授にあげたら、貴重なものだと喜ばれた。
シリアにはパルミラという世界遺産がある。パルミラというのは、ナツメヤシのことで、砂漠の中で、そこにだけナツメヤシの木が生えており、つまり水があるので、パルミラ王国は交易の中継地として栄えたのだ。しかし、パルミラはローマ帝国の属国の立場にあった。三世紀頃、女王はゼノビアといい、彼女は独立するためにローマ帝国と戦い、負けそうになってペルシアに逃げようとしたところを捕まって云々という話が伝わっている。オレンジ色の夕日の中のパルミラの遺跡は、忘れることができない。
その後、前大統領が亡くなり、政治とは無関係にロンドンで眼医者をしていた背の高い次男が呼び戻された。妻とはIT企業で働いているのではなかったかしら。新しい指導者により、独裁政治はなくなるだろう。もっと良い国になることだろうと思っていたけれど、そうではなく、息子も独裁者になったので驚いた。
そして、今日、独裁政治が終焉したことを知った。
記憶のままに思い出をいっきに書いてしまったので、歴史のことなどには間違いがあるかもしれないが、見たことをそのまま書いてみた。