彼女は言った。
「あなたは想いを言葉にしてくれない」と、いやに光を反射する瞳で私を見つめながら。
二つの想いが沸き上がった。
「想いを口に出来たなら、こんな性格はしていない」
「ごめんね。私が私でなければ、きっと君は幸せだったろうに」
そして、私はいつものように拳をつくった。想いを握りこんだそれを、コートのポケットにねじ込んだ。
停滞する私を無視して、一秒が進む。その度に、ごうごうと音を立てて全ての海流を呑みこむ、傲慢な渦に支配される。
謝罪、自責、言い訳、転嫁。
それらが足の爪まで暴れまわる。
それでも、結局は自己保身しかできなかった。
「そうなんだ」と、気にも留めていない装いしかできなかった。
彼女は続けて言う。
「可愛いって、四か月も言われてない」
私はまた、「そうなんだ」と言って拳を握りなおす。
行動からは愛が感じられるから、少しは言葉にしてほしい。
最後にため息をひとつ残して、彼女は席を立った。
正解はわかる。
「ごめんね」と言って、血反吐を吐く思いで感情を口にすればいいだけだ。
けれど、それだけは絶対に嫌なのだ。
想いを、感情を口にすることは怖いことだ。
私にとって、それは破滅を意味するのだ。
人間関係は、誰かが歯車になれば円滑になる。
私はそう思っている。
だから私は歯車になった。
いや、なれていなかったから軋轢が生じたのだろうけれど。
言葉なんてものがなくて、テレパシーのように考えていることが相手に伝わる世界だったのなら
私は、素直になれただろうか。