「あれ? あきらさん、少し瘦せましたか?」
出勤前、スーツに腕を通しているときにそう聞かれた。
そう聞く貧乏神さんこと『つむぎ』さんは心配そうな表情を浮かべている。理由は簡単、自分の体質のせいで僕が痩せたのではないかと不安になっているのだ。
「ん? ああ、そういえばそうかも」
さっきズボンをはいたときに自分でもそう思った。
ベルトの穴が二つばかり移動している。
ここのところ白米のみの晩御飯だったからな……とはいえつむぎさんに心配はかけたくない!
「……ここのところ仕事が忙しかったからね」
「なんか目の下にクマもできてますし」
「寝不足もあったしね」
これはもう部屋の地縛霊『平九郎』爺さんのせいだ。
つむぎさんといい雰囲気になった! というところで必ず枕元に現れるのだ。
しかもすぐそばに体育座りの格好で。
こんな状況では悶々として眠れなくなるにきまってる。
「なんだか頬もこけてきて……これもやっぱりわたしのせいですよね……」
「いやいやいや、違うって! オレはいっつもキミといられて幸せなんだから、へんな誤解しちゃだめだよ」
ジトっとした涙目で見つめられると、その可愛さにクラクラ来てしまう。
思わず抱きしめて頭をポンポン。
同時にフラっと平九郎の気配を感じるが、これも無視。
だってこれから出勤なんだから、甘いムードに浸ってる場合ではないのだ。
「晩御飯はふりかけだし、お弁当は日の丸弁当だし……」
「なぁに、それも今日までだよ」
「え?」
「今日が何の日か忘れた?」
「えっと……」
首を傾げる嫁のかわいさよ!
だがまぁ早く不安を解消せねば。
「今日は給料日だよ」
「あ。そうでした! あきらさん、今日はなにかごちそうを作ります! 何が食べたいですか?」
うーん、何がいいかな?
やっぱり肉! 肉でしょう!
「今日は焼肉なんてどうかな? 外食だと高くつくからスーパーでお肉買って」
「いいですね、お家で焼き肉! たしか鉄板もありましたね」
「そうそう。今日は焼肉パーティーにしよう。昼には給料が振り込まれているはずだからさ」
「ハイ! 夕方に特売になったところを買ってきます!」
そうそう。いつだって倹約は大事!
二人でにっこりと笑う。
「じゃ、行ってくるからね!」
「はいアナタ、いってらっしゃい!」
なんて和やかに出勤したのだった。
この時の僕は考えもしなかった。
帰宅後に悲劇が待ちうけていようとは……