「ただいま帰りました!」
ウキウキの帰宅。
今日は給料日。
家では焼き肉が待っている!
「あきらさん、おかえりなさい!」
つむぎさんの声が聞こえ、玄関の扉がふわりと開かれ、電灯の柔らかな明かりに包まれる。
と、同時に僕はドアノブを持ったまま硬直した。
目の前の光景は情報量が多すぎた……
何から認識し、理解すればいいのか、まるで志向が追い付かない。
「た、た だ い ま」
落ち着け。まずは深呼吸だ。
それからこの状況を整理するんだ。
まず、つむぎさん……
うん。いつも通り可愛い。今日は髪をクリップで止めて耳を出している。エプロン姿もいい。
六畳間の机にはカセットコンロと鉄板とうずたかく積まれた肉の山。
うん。これもいい。量が尋常じゃないことを除けば。
机の左側に……たしかつむぎさんの姉の『あきこ』さん。
やたらと露出の高いワンピースにゴージャスな装飾品で固めている。
どうしてここにいるのかはよく分からない。
そのすぐ後ろに正座しているのが地縛霊の平九郎爺さん。
正座しつつも首を伸ばし、あきこさんの胸をのぞき込んでいる。
この人は平常運転か。
さらにその隣には知らないおばあさん。にっこり微笑んでいる。
彼女の前にもご飯とタレの皿がちゃんと用意されている。
すっかりこのメンバーとも打ち解けた雰囲気。
てか、誰?
その膝の上には猫のクリリンがすっかりくつろいで丸くなっている。
「あの、これ、どうしたの?」
そう聞くのがやっと。
「あー、あきら君、久しぶりぃ。給料日だと思ってきちゃった!」
と答えたのはあきこさん。
屈託のない笑顔で当たり前のようにそう告げた。
ちなみに彼女、美人でセクシーで、人懐っこいいい人なのだが、つむぎさん以上の貧乏力を発揮するらしい。
「すいませんねぇ、わたしまでご招待してもらってホホホ」
(誰?)
聞こえないようにつむぎさんに聞いてみる。
(同じ階の『およね』さん。一人暮らしで今日が誕生日だって聞いて、ついご招待したの)
(まぁそういうことなら……)
「はやく座って、あきらくん! 今日はとことん飲むわよ!」
そういうあきこさんの周りにはすでにビールの空き缶が転がっている。
つむぎさんは『ごめんなさい』というようにちょっと手で合図した。
(いいよ、食事はたくさんのほうが楽しいからね!)
……そうはいったものの、この肉の量、買い込んだビールと酒瓶の量。
もはや悪い予感しかしなかった。