旅行先から帰って来ました。
今回の旅の目的というのが、とある本を探すことでした。
その本は私が本の楽しみを初めて知った全集で、たいへん古いものなので収められている話もタイトルが変わっていたり絶版オンパレードだったりで、今はもう読めない訳のものも多くあります。
実際、その全集でなくとももう一度読みたい、と思って私の知るタイトルで思う限りのツールを使い検索しても、もう手に入らない話がありました。
となるともう、その、私が読んだ全集を探すしかないわけです。
セピア色の記憶を頼りに。
探すこと十数年。
各地の古本屋をめぐり、古書販売をめぐり……それでも出会えず。
今回の旅行でやっとこさ、その本に出会えました。
幼い頃に読んだ本ってのは、大人になって読むと思っていたものと違っていることがよくありますが、その本に関しては記憶のまま……本当に、記憶のままでした。においまでそのままでした。店の奥にすすんで背表紙を見つけた瞬間、目を疑いました。その本で間違いないことを確認した瞬間泣きました。恥ずかしげもなく。二十代の大人が。
状態がいいだけでなく、目を疑う激安価格でした。560円。かっちりした、箱付きのハードカバーです。中身はフルカラー見開きのイラストつきで、絵を描いているのはいずれも名の知れた方ばかりです。紙だってペラペラでなく、今じゃ絵本以外でお目にかからない厚紙で、それが子供のこぶし程度の厚みの本になってるわけです。今そんな本を書店で普通に買おうと思うと確実に3000円、下手したら4000円から5000円はくだらない代物なのです。もっとするのかな…
店主さんのところへ本を持っていくと、カウンターに置いた本を見てお爺さんがふっ、と笑いました。
「いいのを選んだね。もう今じゃこんな本は出せないんだよ」
「そうなんですか」
「みてごらん」
カラーの表紙カバーをめくると、またカラーの表紙が顔を出します。
「カバーの下もカラーで模様が描いてあるんだよ。こんなの今はまず無理だ。金がかかりすぎる」
「挿絵もカラーですもんね……」
「他も色々、この本は凝ってるよ。綺麗な本だよね」
家に帰ってその本を読むことが待ちきれない。封をとけばまた泣いてしまいそうなくらい嬉しい出会いでした。