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タイヤ交換で日が暮れて

雪国に住んでて車を持ってると、年に二回のタイヤ交換をしなければ生活が成り立ちません。
雪国に暮らすわたしも、毎年この時期になるとカレンダーと天気予報を見ながら「いつやりましょうかねぇ」なんて頭を悩ませたりしてます。
今年も例年と同じような11月の4週目に交換するかと予定を組んで、その通りに交換作業となりました。
ただ例年と違ってたのは、明日には大雪だぞとテレビもラジオも言ってる中での作業になったこと。
やることはいつもと一緒とはいえ、どこか急かされてるような気になります。
お昼を食べて一息ついてから車庫に向かうことに。

作業に必要なフロアジャッキとインパクトレンチを物置から引っ張り出してセットアップ。
冬用のタイヤも物置から2本ずつ抱えて車庫の壁に立てかけて。
耐衝撃の手袋と安全靴を身に着けたら準備完了。
安全靴は万が一のお守りみたいなもんですが、履かずにケガをしたくありませんからね。
何事も格好から入るわたしなのですが、格好を決めると気持ちも入って来ますから。

30分くらいで交換作業はおしまい。
後はジャッキとレンチを片付けるだけ……と思いながら車を見ると、タイヤが1本ぺしゃんこに。
「ったく、しゃあないなぁ……」
ボヤキとともに大きなため息をひとつ。
保管してあるタイヤの空気が抜けてくるのはよくあることなんですけれど、ぺしゃんこになるまで抜けることはなかなかありません。
そうならないよう気を使っていたはずだったんですが、目の前に潰れたタイヤがある以上、気の使い方が足りなかったってことなんでしょう。
仕舞いかけたジャッキをもとに戻し、すっかり仕舞い込んだインパクトレンチをまた組み立て直し。
外したタイヤをつけ直して、潰れた方は車のトランクに。
そうして向かった先がたまに行くフルサービスのガソリンスタンド。
困ったときの駆け込み寺です。

もともとタイヤ交換の後に給油と空気圧チェックをお願いするつもりでいたのですが、今回は潰れたタイヤがまだ使えるかも見てもらうことに。
実はわたしの車、タイヤのサイズが少し珍しいものらしく、あまり入手性がよろしくありません。
あっても同じようなサイズの車よりも高くついてしまいます。
ワイパーやバッテリーも同じものがどこでも手に入るとは言い難いサイズ。
そういや「このワイパー、とってもレアなスポーツカーと同じものなんですよ」と営業さんに言われたことを思い出します。
それだけ高性能だって言いたかったのかもしれませんが、性能が良いよりも入手のしやすさの方がありがたいのになあと思ったものでした、
後になって量販店で取り寄せだと言われたときにはげんなりしたものですが。
そんな経緯もあって、買い替えとなると苦労するのは目に見えてます。
「すっかり抜けちまってんだもん、びっくりよぉ」と明るく振る舞ってはみるものの、内心は不安で一杯。
トランクでぺしゃんこになってるタイヤだって、確かショップを数軒回ってようやく見つけたものでした。
そのショップも今はもうないし……。

ガソリンスタンドの待合室。
妙に安い自販機の缶コーヒーを買って空いてる席に腰を下ろして、スマホを取り出します。
ゲームをしたりSNSを見たり。時間を潰すには良い時代になったよねと改めて思います。
ついでに不安な気持ちも隠してくれますし。
傍から見たら何を熱心にスマホでやってんだろうと思われてたかも知れませんが。
待合室のテレビはつまらないし、奥の事務室からはスタッフさんが何やら電話してる声も聞こえます。
こんな時は終わるまでスマホ見てるに限るというわけで……。

「お客さん、ちょっと見てもらいたいんですが」
しばらく経った頃、店員さんに呼ばれました。
「潰れてるタイヤですが……」
そう言いながら、店員さんはわたしを作業スペースに連れていきます。
言われるがままについて行くと、潰れたタイヤのエア漏れをチェックしているところでした。
店員さんの説明するところだと、アルミホイールとタイヤがくっついてるところでホイールの塗装がはがれて隙間が出来てるらしいと。
はがれた塗装面を綺麗に削ってから組み直したら多分大丈夫じゃないかと言う事でした。
時間と若干の出費はかかるけどどうしますかと聞かれて、二つ返事でOKを出すことに。
「壊れてっからもうダメ」と言われなくて助かりました。
冬用のタイヤは1本単位で売られることが少なく、もしダメとなると4本まとめてお取替え。
ボーナス前のわたしにはかなり厳しいことになるわけで。
そうならなかったことに心のなかで深く感謝しつつ、「時間はかかってもいいんでお願いします」と伝えたのでした。

外を見ればみぞれ混じりの雨がひっきりなし。
空もだんだん暗さを増してきます。
それでも不安がなくなったわたしにとっては十分に明るいものでした。
作業が終われば雪になっても安心して走れますし、待てば良いだけなのですから。
缶コーヒーのおかわりをして、じっくりを腰を落ち着けてスマホとにらめっこの態勢に戻ります。
あとは作業終了を待つばかり……。

「お待たせしました」と店員さんに言われたのが、それから2時間も経ったあと。
すっかり陽は落ち、辺りは真っ暗。
「遅くなって申し訳ないです」「いえいえ、手間かけさせてしまいまして」と言い合いながらお会計を済ませます。
金額に若干の違和感を感じつつ、車に乗り込んでスタンドを出ます。
切ったステアリングをもとに戻したところで、違和感の正体に気が付きました。

「あ、ガソリン入れてもらってないやん……」
金額を聞いたときにも、レシートをもらったときにも気づけないわたし。
苦笑いしながらスタンドに戻ったことは言うまでもありません、

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