• 歴史・時代・伝奇
  • SF

永井玲衣『世界の適切な保存』

 アントン・チェーホフは次のように語ったそうです。
「もし第1幕から壁に拳銃をかけておくのなら、第2幕にはそれが発砲されるべきである。そうでないなら、そこに置いてはいけない」
 この『チェーホフの銃』のことを、永井玲衣さんの著作『世界の適切な保存』の10・11ページを読んでいるときに思い出しました。その部分を引用します。


 わりばしでアイスコーヒーかきまぜて映画になれば省かれるくだり(岡野大嗣)

 これは映画だったら省かれるな、と思うことが、わたしたちの日常にはある。
 (中略)
 わたしたちの世界には、回収されない伏線が無数にある。映画や書物の中で、わりばしでアイスコーヒーをかきまぜたら、意味を持ってしまう。重大な事件を解決する鍵になってしまう。だからわたしたちはそれを省く。意味のないそれは、ただのノイズになるからだ。


 チェーホフに従えば、小説の中でわりばしでコーヒーをかきまぜる描写をすると、そのわりばしをストーリーに使わなくてはなりません。たとえばそれで人の目を突くような恐ろしいシーンを書かねばならなくなります。
 現実はそんなことはありません。コーヒーを飲もうとして、手近にスプーンがなかったら、わりばしでかきまぜることでしょう。
『世界の適切な保存』はさまざまな哲学的な考察に満ちた書です。「回収されない伏線」や「ただのノイズ」という言葉は私の心に刺さりました(ノイズにこそ人間の真実があると思いました)。

4件のコメント

  • こんばんは。
    みらいつりびとさん。

    おもしろそうなので、まずはサンプルをダウンロードしてみました。
    ご紹介ありがとうございました。

    ではでは〜。
  • こんばんは。
    青切さん。

    哲学者のエッセイ集です。
    最近、純文学の文章について考えていて、ヒントをもらった気がしました。

    ではでは~。
  • こんばんは。

    哲学的な話ですね。

    そのアントンさんの言われていることば、わたしと同意見です。
    わたしは、それを時の流れと表現してますが。


  • もっちゃん様、こんばんは。

    自らの思索でアントンさんと同意見にたどりついていたのなら、素晴らしいセンスだと思います。さすがですね。
コメントの投稿にはユーザー登録(無料)が必要です。もしくは、ログイン
投稿する