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読書紹介・4冊目

 今回紹介するのは久生十蘭の『黄泉から』という短編です。
 時代設定は戦中戦後、登場人物も、まあ特別な才能があるとかではなく、奇抜な発想や展開があるわけでもない作品です。
 一応冒頭のあらすじだけでも。

 主人公は仲買人としてフランスから日本に帰国したばかりの男・魚返光太郎。彼が駅のホームで電車を待っていると、久しぶりに以前のフランス語の師であるルダンと出会う。
 光太郎やその従妹のおけいにもフランス語を教えていたルダンだが、今度の戦争で多くの教え子を亡くしてしまっていた。おけいもその一人だった。
 これから墓参りに行くのだというルダンに思うところがあった光太郎は、自宅でおけいのために迎え盆の用意を整えるのだが、そこに一人の客が訪れる。彼女はおけいの最期に立ち会った人物であった。

 という感じで。
 私が書くとどへたくそになるので実際読んでもらった方が早いですね。とても短い短編なので。

 ところで本を読んでいるときに、時たま痛切に感じるのが、「漢字が読めない」ってことなんですよね。間違いなくいい話だっていうのはわかるのに、読めない漢字があるだけで頭の中で詰まってしまうし意識がぶれてしまう。それがとんでもなくもったいなくて、悩ましいのですが。
 そういうことがこの作品でありました。ただただ自分の語彙の貧弱さを嘆くばかりです。それでも、そうしたハンデを補って余りあるほどの感動、情緒の深さが、この作品にはあると思うのです。

 傑作を読んでいるとき独特の鳥肌、ってわかるでしょうか。「今私はすごいものを読んでいる」「なぜこれを今まで知らなかったのか」と叫びそうになりながら、頭の中が興奮とか感動にぐるぐる回って、全身総毛立つようなほとんど畏怖に似た快感です。それがこの作品では味わえると思うのです。
 もちろん人それぞれに感性はあるでしょうが。
 でも短編で泣きそうになったのははじめてでした。
 
 私がこの作品を呼んだのは米澤穂信が編纂した「世界堂書店」というアンソロジーだったのですが、今度は久生十蘭としての本で読みたいです。

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