• 異世界ファンタジー
  • 現代ドラマ

妖精令嬢とよもやま話 #1 魔女の家

 今回は拙作「妖精令嬢と識欲魔人」のよもやま話をご紹介しようと思います。
 こちらは特に読まなくても小説そのものの読書体験が大きく左右されたりはしない話です。

***
 
 レーヴライン王国の首都、ファウゼン平民街の東側。閑静な通りにある『魔女の家』は、薬局と併設されているフレデリックの自宅兼職場です。某ゲームとは特に関係はありません。
 
 薬局が開いているのは火曜日と金曜日です。
 ちなみにフレデリックは月・水・木曜日と王立天文台に出勤しています。
 土日は基本的に何もせずに家にいることが多いので、急に薬が必要なお客さんが来た時には開けてくれることもあります。
 
 この家が『魔女の家』と呼ばれている理由は、長らくお住いだった前の住人が、いかにも「魔女!」という風貌の方だったためです。しわしわな顔に小さな丸メガネを乗せ、とがった帽子を好んで被っていたとか。

 王立天文台・薬学科に籍を置くその魔女は、常々引退して田舎に帰りたいと考えていたのですが、自分の薬を頼って訪れる人たちのことを思うと、突然薬局を閉めるのも申し訳ない気持ちがあり、悩んでおりました。
 
 そこへやってきたのがフレデリックさんです。
 王立天文台の魔法使いは、独身の場合寮住まいをすることができますが、独身寮の狭い部屋では蒐集した本が収まりきらなくなってきたフレデリックは手頃な住まいを探していたのです。
 同じ薬学科の繋がりから魔女さんの事情を知ったフレデリックは、「薬局の運営を引き継ぐので、この家を売って欲しい」と名乗り出たのです。

 しかし、この時のフレデリックは天文台の研修(三年間の基礎学習期間)を終えたばかりの20歳の若者。果たして本当に、薬局を引き継がせて大丈夫なのかを見極めるために、魔女さんはしばらくここで仕事を手伝うよう言いました。
 そのときの仕事ぶりの正確さと、効果的な魔法薬の精製などの実績を重ねて、フレデリックは無事に家を売ってもらえることになったのです。
 
 家を売ってもらえることになってからは、高齢の魔女さんが引越しの準備をするのも、フレデリックは手伝いました。彼にしてみれば、ついでに自分がこの後住む家を綺麗に整えたい気持ちが強かっただけの話なのですが、これは非常に親切な行いだったと思います。
 魔女さんは大いに感謝して、首都を出る前に自分が長い年月をかけて作り上げた手描きの薬草の辞典を、餞別としてフレデリックさんに授けています。
 
 文字通り世界に一冊しかないこの辞典は、内容を全て覚えてしまった後でも、フレデリックの大切な本のひとつ。

 この辞典は今、グリューネが使っている部屋の本棚に収められています。奥さんが退屈しないようにとフレデリックの手持ちの中から選ばれた、選りすぐりの良書のひとつにもなっているのです。

コメント

コメントの投稿にはユーザー登録(無料)が必要です。もしくは、ログイン
投稿する