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近況ノート連載小話『十一月の桜』第四話【最終回】

第一話はこちら
https://kakuyomu.jp/users/mami_y/news/16816700429290099209

今回が最終回です。

ジャンルは現代ドラマ。
テーマは小学校受験。

近況ノート連載なので、コンテストはもちろんPVも評価もない世界です。
だからいつでもブラバOK(`・ω・´)b
お時間のある時に、ふらっと覗いていただけましたら嬉しいです。

※このお話はフィクションです。
いろいろ間違っているところ、設定の甘いところはあると思いますが、近況ノート小話だと思って薄目でスルーしてくださいね。

🌸🌸

 それはとてもちいさくて、頼りなげで、天高く伸びあがるような命の匂いがする。

「まま、どうしたの」

 短い腕を一生懸命私の背中に回す。

「大丈夫だよ。ぼくがぽんぽんしてあげる」

 ぽん、ぽん、と背中を軽く叩く。

 ああ、これは。
 ユウマが熱を出した時、幼稚園でお友達と喧嘩した時、水泳教室で上のクラスに行けなかった時。
 いつもユウマに私がしている、「ぽんぽん」だ。

 きっとユウマは、自分が「ぽんぽん」をすれば私が元気になると思っている。
 だから、取り乱した私に。

「……ありがとう。ユウマがぽんぽんしてくれたから、ママ元気になっちゃった」

 ユウマをそっと離し、微笑みを向ける。ユウマは私の顔を見て、ぱあっとヒマワリのような笑顔を浮かべ、ぴょんぴょんとその場を飛び跳ねた。



「ねえ、ユウマ」

 ジャンプが落ち着いた頃、私はきちんと座りなおしてユウマに声を掛けた。

「ユウマは、本当にA小へ行きたいと思う?」
「行きたいー!」

 今更こんな問いを向けるなんて卑怯じゃないか、という気持ちが心の中に浮かびきる前に、ユウマはぴっと右手を挙げて答えた。

「良かった。そうなのね」
「うん! だって制服がキサツ隊みたいだから!」

 ……え? キサツ隊?

 第一志望の小学校の制服は詰襟だ。だから以前から、某鬼退治マンガの隊服みたいだね、という会話はしていた。しかしだからといって、まさかそれが最大の志望理由、とか、それでは……。

「えっと、じゃあ、もしB小になったら」
「B小もいいよー。制服がユウエイ高校みたいだから!」

 一瞬「ユウエイ高校ってどんな学校だったっけ」という疑問が浮かんだが、思い出したとたんに全身から力が抜けた。
 確かあれ、ヒーローになることを目指す少年少女を描いたマンガの舞台だ。

 私はユウマにスマホやゲームは禁止しているが、お友達との会話についていけるよう、最低限のアニメや特撮には触れさせていた。
 しかしあくまでも最低限だ。それなのにまさかあれが、こんな形で。

 制服で志望校を決めるなんて、という思いが浮かびかけたが、思い直す。
 受験する学校は、全て事前にしっかり調べたうえで決めた。だから当人のモチベーションの源が制服だって、それで前向きに受験をとらえられるのなら、いいではないか。

 全くもう。私に似たんだから。
 「服が好き」で進路を決めた自分のことを思い出す。だが今は、自分に似たことにあまり恐れを感じなかった。

 自分に自信がなく、教育に自信がなく、ずっと不安だった。
 今だって不安はある。だけど少し、ほんの少しだけ、心が強くなった。

 ユウマは私を気遣い、「ぽんぽん」をしてくれる子に育った。
 それだけでも、私の子育ては特大の花丸だ。

「そっか。どちらに受かってもユウマはヒーローだね。あ、じゃあもし公立だったら?」
「そうしたらかっこいいランドセル買うの! ここに模様があるやつ」

 「ここ」が「どこ」なのかジェスチャーでは分からなかったが、どうも具体的に欲しいランドセルがあるらしい。戦隊ものの合間に流れるCMで見たのだろうか。

「わあ。ユウマ、どこの学校に行ってもかっこよくなっちゃうね」
「へへへー」

 何故か得意げなユウマを見て、心の中で過去の自分に呆れてしまう。

 やれやれ。何を思い詰めていたんだか。
 受験直前だって、こうやってユウマと笑うことはできるというのに。



 十一月一日。
 紺のアンサンブルスーツを身に着ける。
 持ち物を確認する。受験票を胸に置き、祈りを込める。

 夫は既に身支度が終わっている。いつもより糊固めで仕上げたワイシャツの着心地が気になるらしい。
 ユウマの服をチェックする。ベストの下でシャツがよれていたので、ハーフパンツの中にきちんとしまう。

「さあ、行きましょうか」

 私の言葉に、ユウマは元気よく手を上げた。
 
 

 できることはやった。みんな精一杯努力した。
 あとはもう、ユウマを信じ、自分を信じ、前を向くだけだ。
 秋風吹く十一月に、満開の桜を咲かせるために。

8件のコメント

  • 良かったです!!!
    ママさんも、ユウマくんも、笑っています。
    ふたりとも、かっこよくなっちゃいました!
    一時はどうなるのか、ひやひやしましたが、終わりよければ全てよしです。
    受験はこれからですが、別に受験は終わりでも始まりでもなくて、ただの通過点。
    ずっとずっと笑っていることが大切で、終わりなんか来ないのだと思います。

    李奈さん、執筆お疲れさまでした!
  • 静流さん
    こんにちは(о´∀`о)ノ
    このたびは最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

    良かったと言っていただけ、嬉しいです!
    また、かっこよくなったと言っていただき、ありがとうございます。
    ママさんが少し強くなれて、受験というものに前向きになれる、そして仮に学校からご縁がいただけなくても前向きでいられるようなラストにしたいなあと思っていました。

    はい。そうですね。ただの通過点なので、ずっと笑っていることが本当に大事ですよね。

    このたびは、近況ノートという読みにくい場所までお越しくださり、読んでいただき、コメントまで下さり、ありがとうございました。
    あまり書かない現代ドラマですが、楽しかったです。

    (でも、キサツ隊はキメツだってみんなわかるとおもうのですが、「いねえよなあ⁉」が東リベ、ユウエイ高校がヒロアカって、わからない人にはわからないネタ書いちゃったなあという自覚あります(;^ω^))

    あらためまして、ありがとうございました!
  • いいですね~。理由はなんであれ、前向きな気持ちで受けてくれるのが一番! お洋服の伏線回収、鬼退治ネタもお見事でした!
  • オレンジ11さん
    こんにちは(о´∀`о)ノ
    このたびは最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

    いいと言っていただき、ありがとうございます。
    はい。思い詰めて心が苦しくなるくらいなら、こんな理由でも前向きでいたほうがいいのかな、と思います。

    伏線のこと、おそれいります! わーい!
    男の子の場合、こういうこと(制服を気にする)はそれほどないかもしれませんが、女の子の場合、制服のかわいさって大事だろうな……。

    このたびは、近況ノートという読みにくい場所までお越しくださり、読んでいただき、コメントまで下さり、ありがとうございました!
  • こんなところに小説が!

    否定ばかりのママさんが、最後は私立も公立も否定せず、前向きな気持ちになる心情変化の描写は鮮やかでした! ユウ君のぽんぽんは偉大!!
    ★★★Excellent!!!
  • すなさとさん
    こんにちは(о´∀`о)ノ
    このたびは最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

    えへへー。こんなところでひっそり笑
    PVで落ち込んだりするのがいやだし、いろいろきにしないでいいのが近況ノートかなあと、ここに書いちゃいました。

    連載の途中に別件のお知らせが入った不親切仕様です(;´∀`)

    心情変化のこと、ありがとうございます!
    短編なので変化を細やかに書き込みにくかったのですが、ママさん、前向きになりました♪

    はい。ぽんぽんは偉大です!

    まー! お★さま、みっつ!
    近況ノートでお★さまをいただけるとは!
    ありがとうございます。励みになります♪

    このたびは、近況ノートという読みにくい場所までお越しくださり、ありがとうございました!
  • 玖珂さん、入試については個人的に思うところもあり、とても良かったです。読ませて頂きありがとうございました。
  • オレンジ11さん
    こんにちは(о´∀`о)ノ

    こちらこそ、読んでいただき、ありがとうございます。

    良かったと言っていただき、ありがとうございます。
    自分の「悩み」という感情と向き合うために書いたものなので、(悩みの原因は小学校受験とはぜんぜん関係ないです)投稿したもののちょっと恥ずかしいですー。

    子供が「子供」な、幼稚園、小学校、中学校の受験は、本人はもちろん親も一緒にいっぱい悩んで、苦しんで、喜んで、本当に大変だなあと思います。

    思うところがおありなのですね。
    何かは、ここで伺いませんけれども、どうぞ、ご無理なさいませんよう。

    おいしい紅茶で、あたたまって下さいね。
    (お茶のおともはリコリスキャンディで( ̄ー ̄)ニヤリ)
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