第一話はこちら
https://kakuyomu.jp/users/mami_y/news/16816700429290099209今回が最終回です。
ジャンルは現代ドラマ。
テーマは小学校受験。
近況ノート連載なので、コンテストはもちろんPVも評価もない世界です。
だからいつでもブラバOK(`・ω・´)b
お時間のある時に、ふらっと覗いていただけましたら嬉しいです。
※このお話はフィクションです。
いろいろ間違っているところ、設定の甘いところはあると思いますが、近況ノート小話だと思って薄目でスルーしてくださいね。
🌸🌸
それはとてもちいさくて、頼りなげで、天高く伸びあがるような命の匂いがする。
「まま、どうしたの」
短い腕を一生懸命私の背中に回す。
「大丈夫だよ。ぼくがぽんぽんしてあげる」
ぽん、ぽん、と背中を軽く叩く。
ああ、これは。
ユウマが熱を出した時、幼稚園でお友達と喧嘩した時、水泳教室で上のクラスに行けなかった時。
いつもユウマに私がしている、「ぽんぽん」だ。
きっとユウマは、自分が「ぽんぽん」をすれば私が元気になると思っている。
だから、取り乱した私に。
「……ありがとう。ユウマがぽんぽんしてくれたから、ママ元気になっちゃった」
ユウマをそっと離し、微笑みを向ける。ユウマは私の顔を見て、ぱあっとヒマワリのような笑顔を浮かべ、ぴょんぴょんとその場を飛び跳ねた。
「ねえ、ユウマ」
ジャンプが落ち着いた頃、私はきちんと座りなおしてユウマに声を掛けた。
「ユウマは、本当にA小へ行きたいと思う?」
「行きたいー!」
今更こんな問いを向けるなんて卑怯じゃないか、という気持ちが心の中に浮かびきる前に、ユウマはぴっと右手を挙げて答えた。
「良かった。そうなのね」
「うん! だって制服がキサツ隊みたいだから!」
……え? キサツ隊?
第一志望の小学校の制服は詰襟だ。だから以前から、某鬼退治マンガの隊服みたいだね、という会話はしていた。しかしだからといって、まさかそれが最大の志望理由、とか、それでは……。
「えっと、じゃあ、もしB小になったら」
「B小もいいよー。制服がユウエイ高校みたいだから!」
一瞬「ユウエイ高校ってどんな学校だったっけ」という疑問が浮かんだが、思い出したとたんに全身から力が抜けた。
確かあれ、ヒーローになることを目指す少年少女を描いたマンガの舞台だ。
私はユウマにスマホやゲームは禁止しているが、お友達との会話についていけるよう、最低限のアニメや特撮には触れさせていた。
しかしあくまでも最低限だ。それなのにまさかあれが、こんな形で。
制服で志望校を決めるなんて、という思いが浮かびかけたが、思い直す。
受験する学校は、全て事前にしっかり調べたうえで決めた。だから当人のモチベーションの源が制服だって、それで前向きに受験をとらえられるのなら、いいではないか。
全くもう。私に似たんだから。
「服が好き」で進路を決めた自分のことを思い出す。だが今は、自分に似たことにあまり恐れを感じなかった。
自分に自信がなく、教育に自信がなく、ずっと不安だった。
今だって不安はある。だけど少し、ほんの少しだけ、心が強くなった。
ユウマは私を気遣い、「ぽんぽん」をしてくれる子に育った。
それだけでも、私の子育ては特大の花丸だ。
「そっか。どちらに受かってもユウマはヒーローだね。あ、じゃあもし公立だったら?」
「そうしたらかっこいいランドセル買うの! ここに模様があるやつ」
「ここ」が「どこ」なのかジェスチャーでは分からなかったが、どうも具体的に欲しいランドセルがあるらしい。戦隊ものの合間に流れるCMで見たのだろうか。
「わあ。ユウマ、どこの学校に行ってもかっこよくなっちゃうね」
「へへへー」
何故か得意げなユウマを見て、心の中で過去の自分に呆れてしまう。
やれやれ。何を思い詰めていたんだか。
受験直前だって、こうやってユウマと笑うことはできるというのに。
十一月一日。
紺のアンサンブルスーツを身に着ける。
持ち物を確認する。受験票を胸に置き、祈りを込める。
夫は既に身支度が終わっている。いつもより糊固めで仕上げたワイシャツの着心地が気になるらしい。
ユウマの服をチェックする。ベストの下でシャツがよれていたので、ハーフパンツの中にきちんとしまう。
「さあ、行きましょうか」
私の言葉に、ユウマは元気よく手を上げた。
できることはやった。みんな精一杯努力した。
あとはもう、ユウマを信じ、自分を信じ、前を向くだけだ。
秋風吹く十一月に、満開の桜を咲かせるために。