第一話はこちら
https://kakuyomu.jp/users/mami_y/news/16816700429290099209今回で完結させるつもりでしたが、長くなったので次回最終回とさせていただきます。
今のところ鬱展開ですが、ちょっと明るい気持ちになれるラストをめざしています。
ジャンルは現代ドラマ。
テーマは小学校受験。
近況ノート連載なので、コンテストはもちろんPVも評価もない世界です。
だからいつでもブラバOK(`・ω・´)b
お時間のある時に、ふらっと覗いていただけましたら嬉しいです。
※このお話はフィクションです。
いろいろ間違っているところ、設定の甘いところはあると思いますが、近況ノート小話だと思って薄目でスルーしてくださいね。
🌸🌸
入試まで着々と日が迫っている。
受験するのは三校。我が家から通うことを考えると、これ以上増やすことができない。そして初日は十一月一日だ。
「ユウマ君ママ、相変わらず凄い荷物う」
幼稚園のお迎えのために園庭の隅で立っていると、ユウマと同じ組の女の子のママが声を掛けてきた。彼女の甲高い声を聞いて、反射的に身構える。
彼女と話していて、気分が良くなったことは一度としてない。
「それ何入ってんの? 仕事の道具じゃないよね」
「あ、これね、ユウマの習い事で使うものなの」
「にしても多くない?」
「うん。今日は色々必要で」
彼女とは普段そんなに話す仲ではないのだが、たまにこうして絡まれる。とはいえ仲良くしたいから、という理由で話しかけていないのは明らかだ。
園庭の反対側にある滑り台の近くに、仲の良いママ友を見つけた。上手に受け流して早く彼女達の方へ行きたい。
「ああ、あれかあ。おじゅけーん、ってやつの、勉強道具」
「おじゅけーん」の所で、蔑むように唇を歪める。
「大変だねえユウマ君。もっと遊ばせてあげてもいいんじゃない? 幼稚園の時はひらがな読めるくらいで充分だと思うんだけど」
教育方針は人それぞれだ。彼女の考えもありだと思う。だからこちらも放っておいて欲しい。
これ以上、受験のことで心を乱したくない。
「あれでしょ、受験の教室だけじゃなくて、いろんな習い事させてるんでしょ。ウチの子から聞いたよ。遊ぶ暇もないじゃん」
「うーん、でも受験はもうすぐ終わるから。そうしたら思いきり遊ばせようかなって」
「なんか可哀相、ユウマ君。受験ってさ、中学受験までは理解できるけど、小学校とか幼稚園とかって、本人の意思でするもんじゃないよね。要するに親のエゴじゃない? ちょっときついかもだけどさ、私、思ったことははっきり言っちゃう人だから」
幼稚園の建物からがやがやとした声が聞こえてきたかと思うと、園児たちが蜜蜂のように威勢よく外に飛び出してきた。
園児たちが保護者のもとへ駆け寄ったり友達と追いかけっこを始めたりする。園庭に弾けるような笑顔が溢れ、まばゆいほどの光が満ちた。
光に手を伸ばす。そこに甲高い声が突き刺さった。
「なんか心配だよ? 別にユウマ君ママがそうだって言ってるわけじゃないけどさ」
ユウマの姿を見つける。私に向かって笑顔を見せてくれる。私は一歩踏み出した。
「ほら今、教育虐待とかニュースであるじゃない」
それから、どうやって習い事に付き添い、どうやって帰ってきたのかよく覚えていない。
ユウマと会話を交わし、お教室の先生に挨拶はしていたはずなのだが、頭の中にはずっと、園庭で聞いた言葉が鳴り響いていた。
――親のエゴ
どこかでそうじゃないかと思っていた。受験はユウマのためを思ってやっていることだけれど、実は自分の血に恐れるあまり強要しているのではないか、エゴを押し付けているのではないか、と。
そしてそれは。私のやっていることは。まさか。
――教育虐待
そんなわけない。私はユウマの将来のためにやっている。学校選びだって、知名度とかではなくユウマの性格に合っていて、教育理念に共感したところを選んだ。
夜更かしさせて宿題やお稽古をさせたことはない。でも一体幾つの習い事をさせたんだ。いやそれだって体を動かすものもバランスよく。でもいつも疲れているのは知っているだろう。いや無理は。でも声を荒らげたことがある。𠮟りつけたことがある。だって真剣にならないから。いやどの口が言うんだ私の分際で。私ごときが子供の教育に携われると思うなんてとんだ自惚れだ、可哀相。可哀相なのかユウマは。私のせいで。私が。無理やり。私は――。
「あああああっ!」
私の心の中で何かが切れた。
どす黒く苦い感情が喉から溢れ出る。リビングのソファで頭を抱え、感情を叫びに変えて吐き出した。
息が苦しい。目の前がちかちかする。
こわい。こわい。
どうしよう。どうしよう――。
ふ、と、あたたかく柔らかいものが私の体を包み込む。