――ストーンヒル 事務所 バーカウンター。
いつも通りに何気無い仕事を終え夕食を済ませたストーンヒルのメンバーたちは、いつものようにバーカウンターに集まり歓談していた。ただその日、少しだけいつもと違っていたのは、バーテンを務めるバレル・プランダーが、いつも以上に上機嫌だったということだろうか。
「どうしたのですかニヤニヤして。そんな顔をしていては子供が泣きだしますよ」
「フッ、今日だけはなにを言っても許してやる」
「珍しいことで。いつもなら、そんな些細なことでもめくじらを立てるのに」
「人の顔を侮辱しておいて、それを些細なことなんて言ってるんじゃねぇよ!」
「ま、まぁまぁ。それよりバレルさん、なにか良いことでもあったんですか?」
「良くぞ聞いてくれたな。だが雫、良いことがあったなんてもんじゃない。今日はな、凄く良いことがあったのさ」
「勿体ぶらずになにがあったのか話したらどうなのです?」
「せっかちな奴だ……。良いか、聞いて驚くなよ? なんと、俺たちの話が、1000PVを達成したんだよ!」
「せ、1000PV ⁉ 凄い! それは本当ですか⁉」
「……全く、世の中には暇な人間もいるものですね」
「照れるなよ。声が上ずっているぞ?」
「……んんッ! あー、ではその、そういうことならお祝いをするべきではないのですか?」
「まぁ、今日くらいは奮発してやっても良い。なにせ、1000PVだからな」
バレルは厳重に錠が掛けられた戸棚から一本の酒瓶を取り出すと、それをまるで繊細な宝物でも扱うかのように、慎重に二人の前へ置く。
「……そんな、まさか……こんな物が、あるなんて……」
「ラガ……ヴリン、ですか?」
「ラガヴーリンって読むのさ。言っておくがイミテーションでも再現複製品でもない、三百年前の代物だぞ」
「再現複製品ではない本物⁉ あ、開けるつもりなのですか⁉ そんな貴重な物を⁉」
「シャロ、酒って言うのは飲む為にあるんだぜ。セラーに並べて満足するのは金持ちにやらせておけば良い。そうだろう?」
「……きょ、今日だけは、貴方が雇い主で良かったと思ってやっても良いですわ」
「素直じゃない奴だ」
そう言うとバレルは酒瓶のフィルムを剥がし、慎重な手付きでコルクを固定し酒瓶を捻る。ポンッ、と瓶の震える音を伴いながらコルクが抜かれると、そこからえも言えぬ芳醇な香りが鼻腔をくすぐった。
「……凄いな……」
「……えぇ……」
それだけ言うと、バレルは奥の戸棚からいつものロックグラスではなく小ぶりなチューリップの花にも似たグラスを三つ取り出して、少量をそこへ注ぐ。バレルとシャロの二人は思い思いにそれの香りを嗅いだり色を確かめた後、口付けをするようにグラスを口元へと運んだ。
目を瞑り、三百と十六年余りの時を紐解くように口で酒を転がすと、静かにそれを飲み下す。
「……言葉に、なりませんわ……」
そう口にしたシャロの目からは、静かに二すじの涙が溢れていた。
「知らないのかシャロ、こういうときはな、旨いの一言があれば良いんだよ。それ以外は無粋ってもんだぜ」
「……そうですね。本当に、その通りですわ」
「だが、こいつは格別の味だな」
「えぇ。まさに1000PVの味ですわ」
「そいつは違いない」
ニヒルに笑うバレルと少しだけ口元を緩めるシャロ。言葉は無くとも、二人には愉楽と称賛の気持ちで溢れていた。が――。
「あ、の……すみません……これ、凄くまじゅい、です……。土っぽくて、なんか、消毒液の匂いって、言うか……」
二人を余所に、一人だけ渋い顔をする雫。その後も笑い声の絶えないストーンヒルの夜は、いつも通りに過ぎて行った。
***
改めまして、Liberator The Nobody’s.の1000PV達成、ありがとうございます!m(_ _)m
色々と思うところがあってネットという形でこの話を投稿するに至りましたが、まさかこんなにも読んでいただけるとは思ってもいませんでした。
正直に申しますと、話を書いていて苦しいと感じることも多々ありましたが、♡や☆、そして何よりも応援のコメントをいただけたことで、今日まで頑張ることができました。読んで下さった方々には、本当にいくらお礼を申し上げても足りません。
そんな感謝の気持ちを込めて、ささやかではありますが上記の短編を書かせていただきました。
劇中に登場しましたのは、Liberator The Nobody’s.Ⅱの“ 祝杯と涙と大人の階段と”でも触れられたスコッチウィスキーの“ラガヴーリン”です。
感動する二人を余所に、雫は口から吐き出さんばかりの表情をしていたようですが、どちらの評価も間違ってはいません。恐らく何の前情報も無く口にしたなら、雫同様、土臭い消毒液を飲まされた気分になる人もいることでしょう。
このウィスキーはウィスキーの中である特殊な分類に位置付けられるお酒であり、例えウィスキーが好きでも嫌いな人は絶対に受け入れられないような独特の味をしております。
気になる方はお試し下さい。と言いたいところですが、色々あって随分と値上がりし、今では簡単に買える代物ではなくなってしまいました^^;
もしそれでも飲んでみたいという方は、ちょっとバーに出掛けて行って、グラスで飲んでみると良いことでしょう。
またシャロはチェイサーにこの酒を溶かした水をバレルに要求していましたが、私はアルコールに強くないので普通の水を飲んでいます。今後シャロの酒の強さが描写される場面もあるでしょうが、彼女は鋼鉄の肝臓の持ち主ですので、くれぐれも真似されることのないようお願いします(笑)
度重ねて申し上げますが、読んで下さった方には本当に感謝しています。長くなりましたが、これからも長々と続けて行くつもりですので、Liberator The Nobody’s.の応援をよろしくお願いいたしますm(_ _)m