帝都オーレファルクのチョコレート薬舗 ―訳あり薬師エミルの事件簿―を呼んでいただいた皆様、本当にありがとうございました。
『異世界奇譚 ―転生鳳凰の旅路―』と世界を共有する物語として、このたび『帝都オーレファルクのチョコレート薬舗 ―訳あり薬師エミルの事件簿―』をお届けいたしました。同じ試みは「焦牙の嵐」でも行っておりますが、あちらがアジアの空気感だとすれば、今回は思い切ってヨーロッパ風の地域へ舞台を移しています。雰囲気の違いを楽しんでいただけていたら嬉しいです。
このお話の着想は、2017年に中央ヨーロッパを旅行したときの記憶にあります。ふらりと入ったチョコレート店で、アンネリーゼのように減らず口を叩きながらも、どこか憎めない可愛らしさのある女の子に接客してもらったことが、ずっと頭の片隅に残っていました。「いつか、この感じを物語にしたい」と思っているうちに、エミルやレーナたちがくっついてきて、今の形になりました。
ジャンルとしては薬を題材にしたミステリ風の体裁をとっていますが、個人的には謎解きよりも「この世界の空気」「路地裏の匂い」「人と人の距離感」を感じてもらうことを一番の目標にしています。一話ごとの文章量はかなり長くなってしまいましたが、そのぶん、夕方の光や、揚げ物の油の音、チョコレートの甘さまで届いていたらいいなと思っています。
実のところ、このシリーズを続けるためのネタや下書きは、まだかなりストックがあります。ただ、それを全部形にできるかどうかは、私の体力と時間と、この物語をもう少し読みたい、と思ってくださる方がいるかどうか次第かな、と考えています。
自分のほうにも余裕ができて、「あ、今なら書けそうだな」と思えたタイミングで、またオーレファルクのどこかの一日を切り取った新しいお話を書きに戻ってこようと思います。
そのときはまた、黒い薬屋の扉をノックしていただけらば嬉しいです。