こんにちは、こんばんは、雪村ことはです。
『開拓船〈自由号〉の記録』、全八話を最後までお付き合いくださった皆様、本当にありがとうございました。
今月のはじめに「少しだけ寄り道をさせてください」と書いてから、三週間あまり。四話のつもりが八話になり、寄り道と呼ぶには少し長い道のりになってしまいました。
まず、ひとつ白状をさせてください。
あのとき私は「元にした作品の名前は、あえて伏せさせてください」と書きましたが、いざ掲載してみると、説明した方がフェアと考え直しました。気がついた方もいらっしゃると思いますが、その作品はジョージ・オーウェルの『動物農場』です。
伏せるのをやめたのは、これは元ネタを当てて楽しむお話ではないと、書きながら思い直したからでした。骨組みを借りていることを先に申し上げたうえで、そこから何をどう変えたのかを読んでいただく。そのほうが誠実だろうと考えました。
そして、ここからが今日いちばんお話ししたかった、私にとってのチャレンジの話です。
一つめは、文体のことです。
この物語の地の文は、誰のことも罵りません。誰の味方もしません。ただ、起きたことと残った証拠を、順番どおりに綴じていくだけです。
他の作品での私は、どちらかというと説明やキャラクターで誰が敵か分かりやすく誘導していると思います。
淡々と並ぶ事実。冷えた事務の言葉。
温度を上げたくなる場面ほど、上げないまま通す。先日「話の書き方が単調で」と書いたのは、手を抜いたという意味ではなく、そう決めて書いたのだという意味でした。(うまく伝わっていたでしょうか、、)
二つめは、題材のことです。
『動物農場』は、はっきりと政治の寓話です。ある革命と、そのあとに起きたことを、動物たちの農場に置き換えて書かれたお話でした。
骨組みを借りるにあたって、私が変えたのはそこでした。八十年近く前の、遠い国の、遠い時代の出来事としてではなく、いま私たちが生きている時代の話とリンクさせて書き直せないだろうか。そう考えました。
ですので、この物語が下敷きにしている風景は、元の作品が見ていたものとは違っています。どちらかといえば、いまの日本で見かけるもの。それから、海の向こうにある、たいへん声の大きな大国のふるまい。そのあたりから持ち込んでいます。
ただ、これだけは書かせてください。私は政治批判がしたくてこのお話を書いたわけではなくて、私は知らない国の政治のことがわからないからです。遠い場所の出来事を借りてきたところで、私の手には実感がなく、きっと薄っぺらい絵にしかならないと思いました。寓話というものは、書き手が肌で知っているものからしか立ち上がらないのだと思います。だから、いちばん身近なところから材料を取りました。それだけのことです。
誰かを名指しで責めたかったわけではない、というのは、どうか信じていただけますと幸いです。
それからもうひとつ。この物語には、読み終えてからもう一度だけ最初の一行に戻っていただくと、見え方の変わる場面をいくつか作っているつもりです。もしお時間ありましたら読み直していただけますと幸いです。
次は、お約束していたとおり『帝都オーレファルクのチョコレート薬舗』です。今度は打って変わって、甘い匂いのする街と、ひとりの薬師の話です。この重たい一本を書いたあとなので、私自身も少し肩の力を抜いて向き合えそうで、今から楽しみにしています。異世界奇譚の幕間、そして第五章は、その後からの再開とさせてください。
ただ、最後に一つだけお詫びがあります。
ここのところまた本業が立て込んでしまい、正直なところ、この数日はほとんど何も手をつけられておりません。そのため薬舗の公開は、私が思っていたよりも少し先になりそうです。
またこの話をしている気がしますが、、おそらくお盆のあたり(仕事はあるのですが落ち着きそうなタイミング)になると思います。申し訳ありませんが気長にお待ちいただけますと幸いです。
ここまでお付き合いくださって、本当にありがとうございます。
(この近況ノートは土曜の職場から書きました)