作者がとても忘れっぽい人間なので、コンセプトや設定等をメモとして残しておきます。本編のネタバレはありません。非っ常ーに読みにくい作品なので、解説としても読めるように書かれています。作品自体はこのメモと関係なく楽しめます。
【完結しました】
完結しました。ひととおり誤字脱字のチェックも終わったので、完結済み作品を好む読者はぜひどうぞ。
【題材について】
カクヨムでは最初に万人向けのライトな探偵物を書いてみました。ミステリは比較的手堅い人気があるし、あとは読む人を選ぶ陰惨なシーンや、性的なのやオタクっぽいものも減らして、コメディテイストの会話を織り交ぜて誰でも気軽に読めるようにしていけば、読んでくれる人が多いかなと思ったのです。しかし、実際にはあまり読んでくれる人は増えず、それならばと次の『黒百合』ではそれを正反対に振り切ることにしました。
そんなわけで、エログロホラー同性愛という思い切り読者を選ぶ題材をわざと選んでます。私は物語が自然に『降りてくる』タイプの天才型の作者ではなく、先に題材や対象読者を決め、それからエロの可否、グロの可否、文字数などの制約条件を決めてから書く、どちらかというと技術者・職人的な書き方をするタイプなのです。登場人物たちも嘔吐したり失禁したり血反吐を吐いたりと大変なことになっているので、苦手な人は本当に読むのをやめておいたほうがいいです。
読者を選ぶ要素がてんこ盛りになっているので、それでも読んでくれる人がいることは、本当にありがたいことだと思います。
なんだか、あらすじと実際の内容が少し乖離しているような気がします。現在のプロットではクロエが『命令』を出す回数が当初の構想より減っているので、だんだんというより一気に崩壊が始まる感じになりそうです。
最大の元ネタと言えるものは『エコール』という映画だと思います。基本的に耽美な雰囲気だけの謎映画なのですが、少女がどこかから連れて来られて城っぽいところに閉じ込められる状況はここから来てます。
【プロットについて】
この作品は頭の中のイメージだけをもとに見切り発車で書き始めていて、当初はラストがどうなるかさえまったく決まっていませんでした。7話まではまったく頭のなかのイメージだけで書き連ねていて、ちゃんとしたプロットが検討されたのは8話以降です。いきあたりばったりに始まった作品ですが、ちゃんと話をまとめて完結しますので気に入ったら星ください。
ラストのプロットは二転三転していましたが、概ね決まってきた気がします。「俺達の戦いはこれからだ!」系ではなく、「ああ……終わったな……」っていう終わった感のある終焉になります。
【文体について】
文体は基本的には筆者が普通に書くときよりやや軽めかなと思います。一人称の小説は語り手のモノローグがしやすいですが、この小説ではわりとガンガン物語を進めています。ウェブ小説なのでテンポを上げたいのと、主人公が比較的常識人なのであまりモノローグで心象を説明する必要がないのも理由です。
それに、ホラー小説は語り手と読み手が近い位置にあったほうが楽しめそうな気もします。ただ、語り手の奏は必ずしも一方的に怖がってばかりというキャラクターではありません。恐怖を覚えることもありますが、その理不尽さに反発することもあります。あんまりビビり過ぎにすると、読者がこいつビビリすぎじゃねって思って一歩引いてしまうかもしれないからです。
【視点移動について】
最初の何話かは凛視点。わざと舌足らずな感じの口調の一人称になっていて、これも読みにくさを増加させてるはずです。「ナイフが刺さったままだと痛そうだから抜く」とか、思考も微妙に幼稚というか、未熟さゆえの冷酷さや世界観の歪さみたいなものの表現になっていて、ところどころで違和感があるかと思います。この奇妙な思考をもう少し増やそうかと思っているくらいです。
5話くらいから語り手が変わって、地の文が普通になります。しかしここから、物語の語り手(奏)は知らないのに、読者は過去にあった出来事を知っているというズレが生じるようになっています。一人称なのに語り手の知識と読者の知識が一致しないという、ややこしいことになっていて、自分でも書いていて難しいところです。本当に読みにくい作品で申し訳ないですが、これも意図した仕掛けです。
ちなみにもう一回だけ視点移動が予定されていて、ここでもなるべくぶっ飛んだ展開になる仕掛けを作ろうかと思っています。
凛も奏も似たような状況から始まります。4話までの語り手(凛)は「鉄格子」という単語がすぐには出てこないけど、5話からの語り手(奏)はすぐ鉄格子という単語が出てくるという違いも設定されています。このあたりも意図的に差をつけていて、読者の方々に伝わっていればいいのですが……。
凛にしろ奏にしろ、名前が出てくるのもだいぶあとになります。それまでは「私」なので、関係性もわかりづらいと思います。凛も奏も、元の世界から持ってきたものは、衣服のような物理的なものはもちろん、名前すら奪われています。この辺り、全てを奪い去るのもクロエの意向によるところです。
【キャラクターについて】
登場人物は少ないですが、そのわりに人間関係は複雑で微妙です。
凛のキャラクターは、年齢の割に賢いが性格は少し幼い、という感じになっています。サブヒロインですが、読者の感覚とは微妙に重ならず、違和感のあるキャラクターとして設定しています。まだまだ成長の途中にあり、人格が固まる途中でクロエの世界に引き摺りこまれることで、性格の歪みが始まります。
凛は奏のこともクロエのことも、周りの人間のことはみんな大好きです。クロエが作る歪んだ世界と奏の正常さの板挟みになる、難しい役どころだったりします。また、ある種の非凡な才能に恵まれていることが後半で明らかになっていきます。
奏はメインヒロインであり、思考の根本は良くも悪くも常識的、倫理的です。人を殺すのは悪いことだ、というまともな判断力が働く作中では数少ない常識人なので、それが後々いろんな破綻の引き金になっていきます。『城』の中は歪んだ世界なので、ゆがんでいる人間のほうが問題が起こりにくく、奏のような普通の人間ほど問題を生じるのです。
奏はクロエに複雑な感情を抱いています。基本的には恐れて憎んでいるのですが、『城』の世界ではクロエは頼りがいのある相手です。凛は年下なので、奏は凛に甘えるのには戸惑いがあるのですが、その点クロエはいつでも奏を思い切り甘えさせてくれる唯一の人間なのです。凛はクロエにとうに籠絡されていますが、奏はクロエに完全に取り込まれるかどうかという微妙なラインで踏みとどまります。これは奏の元からの常識的な性格と、凛と特別な関係を築くこと、城に連れて来られた時に最初に与えられた命令の内容などが影響しています。命令が凛と同じような内容だったら、クロエに完全に呑まれていたかもしれません。
クロエは一見謎めいたキャラクターのようで、実は裏も表もありません。表情豊かで自分の使用人達にはとても優しいですが、『命令』に従わない人間への制裁に容赦はありません。二面性はありますが、別にそれは隠れた一面があるというわけではなく、城の人間は全員クロエの性格をよく知った上で行動しています。好き嫌いはありますが、善悪という観念からは超越してます。
クロエは城に引き入れた人間をみんなとても気に入っていますし、だいたいの使用人たちもクロエのことを慕っています。クロエは城の子たちと百合百合したいらしく時々誘いを入れているようですが、その辺りについては無理強いはしません。
クロエが絶対服従を求めるのは、地下牢で直接言い渡される『命令』だけです。『命令』でなければ、ミスしたり指示に違反しても、凛みたいにお尻を叩かれたり優しく叱られるだけで済みます。でもこの『命令』に従わなかったり、逃げ出そうとした人間には悲惨な末路が待っています。
この『命令』が何なのかは作中後半で語られます。…というつもりだったのですが、あまり詳細には説明しないことにしました。クロエは行動原理が謎めいていて制御不能のキャラクターなのが怖いところなので、あまり説明して判明してしまうのは作品としては面白くなくなるからです。この『命令』には実は城の存続やクロエの人格に関わるいろいろな意味があって、設定自体は存在するので、本編と別にネタバレ設定資料集的なものを書くときには語られるかもしれません。
その他の登場人物には、今のところあまり細かい設定はありません。咲に重要な設定が多少あるくらいです。
クロエは百合百合しい関係を持てる素質のある子を選んで城に招いているようです。お互い近すぎて難しい関係を、百合関係でうまく繋ぎ止めることで、城の人間関係はどうにか成り立っています。
【時間移動について】
プロローグでいきなり殺人描写なのは、いくつか理由があります。
・『ホラー』を読みに来た人に、まずは前菜をお出しするため
・この程度の描写に耐えられないとこの先キツイぞ、という警告として
・普通は仲の良い友達を殺害するなんてことにはならないわけで、そんなことをするはめになる理由を、以降を読み進めるための謎としてまっさきに提供するため。あらすじでネタバレしてますが。
それに、時系列順に並べたところでこれ自体は予想を裏切る展開にはなっていないわけで、それだったら結論を先に見せてから過程を描くのもいいだろう、ということでこうしています。
また、特定の人物の殺害シーンはファンタジーの世界でもない限り一度しかないわけで、時間を入れ替えても混乱が生じにくいという理由もあります。
ファンタジーの世界ではないので、作中の世界でも基本的には殺人は悪です。でもクロエが作る『城』の世界は独特です。このプロローグは、普通の世界にいた普通の少女だった凛がクロエの世界に染まっていく過程を、ある種の謎解きのように描くための布石になっています。プロローグで凛は「これで助かった」と安心するのですが、普通は人を殺しておいてほっとするなんておかしい訳で、それがその後の展開を読み進めるための謎の提示になっています。
よく考えると、プロローグではナイフで一回刺してスポンと抜いているだけです。異世界ファンタジー作品とかなら一行で描写される単純な内容なので、フィクション世界としては実は大してグロくもないかもしれません。そう考えると、すごくポップでライトな作品な気もしてきました。
【グロテスク要素】
ホラーとして企画したのですが、心霊系のホラーは研究がぜんぜん足りなくて書くのが難しいと判断して、スプラッタ系やサイコ系のホラーから手を付けることにしました。
ただしあくまで『悲惨』な方向に進めていきたいわけではなくて、脇役は結構死にますが主要人物はあまり死にません。主要人物をあまり悲惨にし過ぎると、もう諦めの心境になってしまいかねないためです。あまりにもキャラクターが悲惨な目にあって、もうどうなってもいいや、となってしまったらホラーにならないと思います。嫌!嫌!怖い!という寸前な感じをどうやって演出するかを研究中です。
【百合とえろ】
性表現は必要最低限にしてます。あまりやり過ぎると怒られそうだし、それ自体が売りなのではなく、物語の進行のきっかけとして使われているに過ぎません。今後もあんまりえろえろしいのはありません。……と思っていましたが、カクヨムはタイトルやコピーを除けば結構ハードな描写でもセーフのような雰囲気です。うまく書けるかわかりませんが、もうちょっとえろえろしいのを書くのもいいかなと思い始めました。その場合でも、えろはあくまで登場人物の心理を支配して物語を進行させる役割であり、それ自体がコンテンツの中核ということにはならないと思います。
そのかわり百合百合しいのはもう少し増やしたいと思っていて、読者が百合百合しいのとグログロしいのとを交互に見せられる感じにしたいなあと思います。そのためにいろいろプロットを調節してます。現状だとちょっと百合成分が不足してると思います。
なお、この物語の人物は全員年齢不詳です。想像はつくようになっていますが、凛<奏<クロエ、というような年上年下の関係はあっても、具体的な年齢は一切伏せてあります。これも意図的なものです。
奏は凛とクロエの間に立つキャラクターでもあります。凛とクロエは直接は百合百合しい関係はなく、年齢の離れた姉妹のような関係に収まっています。クロエは奏くらいの年齢の相手でないと、あまりそういう興味を持たないようです。
【凛と奏の関係】
凛はぐろぐろしい過程、奏はえろえろしい過程と、それぞれ異なる経過で館に入ってくるようになっています。そのため、二人は一緒に行動しているようで、それぞれ価値観というか立場が異なってきます。そして、主にクロエのせいで、この二人の関係はいろいろややこしいことになっていきます。
凛は先輩、奏は後輩。
凛は妹、奏は姉。
凛は被害者、奏は加害者。
凛はクロエを好きだが、奏はクロエが嫌い。
ふたりは同僚であり、擬似姉妹であり、恋人みたいな何かであり、とにかくややこしい。どうしてこんなことに。
【舞台】
タイトルには『城』と入っていますが、舞台は軍事目的の城塞ではなく、『マナーハウス』として知られる形式の住居としての建物を模して近世に建築されたものです。百年以上昔の建物ですが、電気や水道もちゃんと通っていて、家電もひと通り揃っています。通信機の類はありますが、厳重に保管されていてクロエか咲くらいしか使っていません。テレビもありますが、めったに使うことはありません。
舞台は基本的に城のなかだけで進みますが、この辺りは筆者の好みが影響してます。筆者は自分が書くにしても読むにしても、物語の舞台をころころ変えたり、たくさんのキャラクターを出したりするより、なるべく少ない材料を濃密に組み合わせて物語を進めていくのを好みます。映画で言うと、『レザボア・ドッグス』や『パニック・ルーム』『狼たちの午後』『十二人の怒れる男』みたいな限定されたシチュエーションでの掛け合いやストーリーが好きなのです。
当初は城の外に出る展開も考えていましたが、ばっさり削ることにしました。ボリューム的には問題ないし、城の外に主人公が出るには時間をかけて十分に信用を稼がねばならず、内容上物語がすごく長くなるからです。作中の使用人達は実は城外で結構活動しています。でもある程度信用がないと外に出してもらえないわけで、入ったばかりの奏が城外活動組に加わるまでには、多くの条件を満たす必要があるのです。
この城がこういう世界になった経緯や、クロエがなぜ女の子たちを集めたりこういうことをやらせていうのか、ということにも設定はあるのですが、それを本文で描くのはあまりに説明的になりすぎるので止めました。そのあたりの設定を説明しきれば読者はすっきりすると思うのですが、別にそれは面白さとは別の要素だろうと判断しました。謎めいていたほうが雰囲気が出るというのもあります。それに回想を加えて描こうとすると多分クロエの一人称になっちゃうので、語り口としていろいろ面倒くさい部分が生じそうというのもあります。
ただ、城の地上と地下牢とを何度も往復することになるので、結構単調な印象になります。そういう印象を拭えるかどうかが課題です。
【タイトルについて】
本作のタイトルは結構適当に決めました。テーマに合わせて『百合』や『城』という単語は入れることにして、そのままでは面白く無いのでホラーとしてのダークな雰囲気を取り入れて『黒百合』に。これは『グロ百合』を連想させる単語でもあります。でも最近の回はなんだか『エロ百合』になりかけているような……。いずれにせよ、この作品で描かれる百合は清純で耽美な百合ではなく、狂気と独占欲で濁りきった百合です。
作中で実際にクロユリの花が出てきますが、これはタイトルが決まって書き始めてから後で追加した要素です。これは物語中の季節感を表すものであるほか、物語の展開にも幾らか絡んできます。
また、クロエの名前がこの『黒百合』と掛かっているほか、『城』は『白』とも対応していて、黒と白という語感の上での対比にもなっています。クロエは黒さと白さが同居しているキャラクターであり、この城の住人はみんないろいろな意味で黒いですが、そこに紛れ込んだ一輪の白百合が奏なのです。
【登場人物の名前】
そういえば、クロエを除いてみんな漢字一文字の名前に統一してあります。これもクロエの趣味という設定です。奏は実は吹奏楽部なのでこの名前です。慈の名前の元ネタは『がっこうぐらし!』のめぐねえですが、それ以外に設定上のつながりはありません。
凛や咲、桜、菫などのキャラクターの名前に由来は特にありません。なんとなく花や植物つながりかな?というくらい。それも単なる後付けの共通点です。
クロエは本名ですが、それ以外に出てくる名前はすべてクロエが付けた偽名です。クロエは城に連れてきた子から何もかも奪い去り、名前さえも奪うのです。新しい名前はクロエによる支配の象徴でもあります。
【銃器・刃物類】
作中に登場する銃器にはモデルを設定してあります。銃器はあまり詳しくはないので、ウィキペディアで調べながら書いてます。
・S&W M36……携帯可能な小型の拳銃が作中で必要だったので、こちらのものだという設定になっています。幾つかモデルがありますが、作中のものはアルミニウム合金製で本体が300グラム強と非常に軽くなっています。ウィキペディアによれば「トリガープルは、ダブルアクションでは約7キログラム、シングルアクションでは約1.6キログラム」とのことですが、女性でも扱いやすいようにグリップを小さくしトリガープルも軽く改造してあるという設定でお願いします。弾丸は室内でも跳弾を気にせずに安全に発射できるフランジブル弾 です。後になって気付いたのですが、これは某有名成人向けビデオでヤクザが使ったものと同種だそうです。たまげたなぁ……。
・レミントンM870……手に入れやすい散弾銃の定番らしいので。こちらも使用者の体格に合わせて改造してあります。ソードオフモデルではなくストックはしっかりついています。作中は女の子ばっかりなので、どんな銃もたぶん改造しないと扱いづらいんじゃないかと。セミオートのM1100という銃もあるそうですが、ショットガンといえばポンプアクションということで、演出のためにわざわざこちらを選んでいます。
ナイフの方には実際のモデルはありません。設定では、荒っぽい使用にも耐えられるように刃に厚みがあり、持ち手が樹脂製の両刃のナイフ、ということだけです。高価なものではなく量産品で、城にはたくさんの在庫があります。それぞれの使用人は、これとは別に各自で気に入ったナイフを使っています。
この作品に登場するメイドさんは、フィクションにありがちな「戦うメイドさん」です。中には家事のほうがおまけで、戦闘のほうがメインのメイドさんもいたりします。なぜ戦うメイドさんなのかも設定があるのですが、作中ではあまり詳しくは語られない予定です。だいたいクロエのせいです。
【主な修正箇所】
公開後に修正した箇所一覧:
・登場人物の名前が変わりました(楓→菫。奏とあまりに語感が似ていたため)
・~4話と5話~で時期が異なるのに、間違えて同じ時期で描写しちゃいました。奏が暖炉にあたっている描写がありましたが、間違いなので修正しました。正しくは、~4話は『もうすぐ卒業式』という頃、5話~は黒百合が咲く頃です。