一齣 其日

‪逆境の拳、それはただ一つのことにしか目がない男達の話。きっと、先のことも、今のことも、何も考えちゃいないのだろう。 タイマン、ただそれだけがルールの賭博試合。野郎共はそこで今日…

出逢いというのは、二度と繰り返すことはない。 それは、幕末という時代でも同じだった── 幕末、ある夜の話である。 夜なべして筆を取っていた戯作者春永の元に、一人の浪士が訪れた。…

『キキトワラエ』 『鬼』──道から外れたその存在は、人知れず世界に跋扈していた。 宝城皇牙はある日、そんな鬼と出逢ってしまった。 喧騒が絶えない雑踏を外れた路地裏だった。 自…

幕末、文久三年。 動乱という名の嵐が吹き荒れる京都に、多くの若者が身を投じている。 三原と才蔵も、その若者達の一人になろうとしていた。 心が熱く昂る。 明日には江戸を出立して、京…

坂口金吾は、鯉口を切る。 公儀に仇をなす一回の町人を討つために、闇に紛れて歩を進める。 例えそれが、武士の風上かも置けないやり方だとしても、それが彼の仕事である。

正一が剣を取って長い月日が経った。 手は刀だこで一杯になり、細かった体も搾り尽くされたように肉が締まっていた。 今では、師である老年にだって稽古で息を呑ませることも少なくはない。…

夏祭り──誠馬は幼馴染のユミナと一緒だった。 手にいっぱいの食べ物を持ってはしゃぐユミナに呆れつつ、伸ばされた手を取って誠馬は年に一度っきりの夏祭りを満喫する。 ずっと、少女が…

戦争が始まって随分と経つ。 昭和十九年の夏、少女はこの頃毎日社を訪れては、手を合わせて願いを祈る。 大好きなとうちゃんとにいちゃんが、無事に帰って来ますように── そんな健気…

どこぞの村では、神と相撲をして雨を降らせたなんて話があるらしい。 日照りに泣く村の社のその前で、神などいるかも知れぬまま、男は神が現れるのを待っていた。 「俺の名は、日はまた…

人類が大気圏を越え、宇宙に進出の足を飛ばしても、娯楽というものはそう簡単には変わらないものらしい。 ──火星 未だ茫々たる荒野が広がり、開拓を必要とされている発展途上の星。 地…

大気圏を越え、星の彼方へと未来を求める時代にあっても、人類の娯楽というものはそう変わらないものであるらしい。 闘争も、またその一つだ。 開拓途上の火星でいくつも開かれたリング、そ…

チャンピオン、全てのボクサーにとってその称号は名誉あるものだ。 今はこの王者の手にあるが、決して永遠ではない。 負ければ途端に、称号もベルトという証も全て失ってしまう。 王者は、…

蛙は蛙にしては長い十年の時を生きた。 共に生まれた同胞達はとうに土に帰ってなお、自分が生きている理由はわからない。 考えに考えた末、十年目に初めて蛙は冬を知る。 心底冷たい風が、…

大学四年の三月、卒業も間近な頃であるがつけなきゃいけないケジメが僕らにはあった。 空の部室で、ゴングの鳴らないリングに上がる。 嫉妬と羨望は、この時になってもまだ拭い難いものがあ…

維新がなって十年になろうとする頃、九州も南端、鹿児島で大きな火種が上がろうとしていた。 西郷隆盛、彼が起こそうとする大戦を前に、駆けつけんとする士族たち。 これは、そんな士族たち…

毎日のように、僕は君と組手をしていた。 何となくで入った空手道場で、まだ未熟だった僕が君の前に立ったその時から。 込み上げてきた感情に突き動かされて、今日も僕は君の前で構えている…

驕れる者も久しからず。 栄華を誇った平氏も、寿永四年三月の壇ノ浦で最期の時を迎えようとしていた。 味方の首が次々と上がる中、ある武者はただ一人、焼石に水と知りながらもなお孤軍奮闘…

焼鳥屋と、それを囲む周りの人々を描く短編物語集。世界は暖かく、生臭く、それでいて楽しいものだ。

月明かりが雲間に隠れた丑三つ時、男はある廃寺を目指し歩んでいた。そこに潜む男の、友を殺した男のこの手でその首を討たんが為に。 しかして、震える胸の内。 それは恐ろしいからか、武者…

人斬りと呼ばれた男共の末路は、どれも悲惨極まりない。 坂堂神崎もまた、そんな人斬りの一人。明治政府御用達の人斬りとして散々に人を斬ら捨てたその最後は、当の明治政府によりその命を狙…

　かの男の感情を支配するは、まさに怒り。 　その怒りは普段は冷たい空気の奥底にあり表層を表さないものの、一度灯れば忽ち果てしなく燃え盛る。それこそ、怒りの向く先を燃やし尽くさなけ…

言論統制だか思想統制だが、彼は知ったことではない。己の思うがままに、込み上げるがままに筆を走らせる。 書き散らせ、吐き晒せ、 それが小説家、八坂士十の生き様。 なお、こちらの作…

シャボン玉キチの正一の続編ともいうべきか、あるいは後日談か、それともスピンオフか。 幕末のその先、明治を生きるシャボン玉キチと、それを取り巻く人間の物語。時にのんびりと、しかして…

幕末から明治にかけ、歴史の裏で、陰で駆け抜けた一人の男の物語。 何事も気ままに、己がためにシャボン玉を吹かす。正義も悪も、主義も主張も彼は持たない。 あるのは、明日もシャボン玉を…

その異人は、とある男について語り始める。攘夷の血嵐が吹き荒ぶ幕末の中でであった、獣のような男の話を。 ※シャボン玉キチの正一のスピンオフです

時は平安末期、その生まれから鬼若と名付けられた男がいた。その名通り、彼は鬼のように振る舞い、そう生きんと荒々しい日々を送っていた。 本物の鬼を前にする、あの夜までは。

互いに互いの道を歩んだ男達は、その道の果てにかつての友に剣を向ける。 ※令和元年11月6日、全面的に改稿。

通士 虐。彼は小説家であり、どうしようもなく自分勝手なエゴイストだ。 彼は日々の生活に何を思い、どう生きるのか。彼が進む自分とは、どのようなものか。 これは、そんな彼の日々を綴っ…

自虐をするしか能のない男は、今日も学校へいく。彼と彼が出会ったどうしようもない人たちの物語。 自分の生き様は抉ることで光るのだ。

平安時代、廃れてしまった都に一人の童がいた。人を殺すことでしか生きていけない惨めな童。そんな最中であったのは、眩いばかりの光であった。

藤原泰衡。 後年英雄源義経を殺した男としてあまり評価のよくない武将である。 彼はなぜ、源義経を殺さねばならぬのか。そして、そんな彼が最期に見たものとは。

彼が寂しい風が吹きすさぶ海辺に来たのは訳があった。見上げた高台には、汚れた風の病院。そこには会わなければならない、いやもう一度会っておきたい人がいるのだ。