原案『犯罪抑止対策室・失敗係』
人 物
岸宣太郎(38)刑事。
澤佑樹(38)無職。
岸真弓(35)主婦。
岸穂花(8)小学生。
澤妙子(66)パート。
山本孝志(38)警視正。
◯小学校の校門(夜)
数台の警察車両が、停まっている。
カメラを構えた報道関係者たちを押し
留めるように、数人の警察官が立って
いる。
◯岸家・外観(夜)
住宅街の中にある、一戸建て。
岸宣太郎(38)が、帰宅する。
◯同・玄関・中(夜)
静かにドアが開き、岸が入ってくる。
居間から、岸穂花(8)が駆け寄って
きて、岸に抱き止められる。
穂花を追いかけてきた、岸真弓(3
5)。
真弓「もう大丈夫。パパが穂花を守ってくれ
るよ。パパは、刑事さんなんだよ?」
岸「この子を守ってくれたのは、先生方だ。
警察じゃない。感謝しなきゃな……」
固定電話が、鳴り出す。
慌てて受話器を取る、真弓。
真弓「はい。そうですが……」
靴を脱ぎ、電話に近づく岸。
真弓「パパと小学校で一緒だった、澤さんだ
って」
真弓から受話器を受け取る岸。
岸「俺だ。どうしたんだ一体。こんな大変な
時に?」
穂花に駆け寄り、抱きしめる真弓。
岸「つまらん冗談だ」
受話器を置いて、電話を切る岸。
岸を見つめる真弓。
真弓「何だったの?」
岸「ニュースを見て、自分も事件を起こした
くなったんだとさ。相変わらず、友達いな
いんだろうな……」
真弓「その人、大丈夫なの? もしも本気だ
ったら……」
岸「やりかねない」
急いで靴を履き直す岸。
穂花「パパ、行かないでーっ!」
岸「パパは、お仕事の続きだ。なるべくすぐ
帰ってくるよ。我慢してくれな?」
穂花の頭を撫でて、外に出る岸。
穂花を後ろから抱きしめる、真弓。
◯タクシーの車内(夜)
後部座席で、スマホのアプリで事件の
ニュースをチェックしている岸。
◯澤家・外(夜)
住宅街の一戸建て。
岸が歩いてきて、呼び鈴を押す。
◯同・玄関・中(夜)
澤妙子(66)が戸を開けると、岸が
作り笑顔で立っている。
岸「おばさん、お久しぶりです!」
妙子「岸君。来てくれて、ありがとう……」
澤佑樹(38)が、ニヤニヤしながら
階段を降りてくる。
澤「岸刑事、来ちゃいましたー」
岸は口を開いて何かを言おうとするの
だが、澤の言葉が遮る。
澤「冗談だろうとは思ったけど、もしも本当
に無差別殺人をやらかしたら、大変なこと
になる」
岸は口を開いて何かを言おうとするの
だが、澤の言葉が遮る。
澤「刑事が犯人から犯行予告されてたのに、
何もしなかったなんて、日本警察史上、有
数の大失態」
岸は口を開いて何かを言おうとするの
だが、澤の言葉が遮る。
澤「犯人を知る人々は、いつかやりそうな奴
だっだって口を揃えて言ってるのに、警視
庁の刑事は何をしてたんだって、日本中か
ら大バッシングだもんなあ?」
岸「とりあえず、土間から上げてくれ」
澤「そんなのは、分かってたよ!」
岸に靴ベラを渡す妙子。
靴を脱ぎ始める岸。
◯同・澤の部屋(夜)
澤と岸が、大昔のテレビゲームで一緒
に遊んでいる。
澤「ああっ……」
岸「すまんっ!」
澤「俺の動きに合わせて、援護射撃をしろっ
て言ってんだろ! 何で、そんなこともで
きないんだよ!」
岸「そんなに怒るなよ……もう忘れたって」
お盆にジュースを載せて、妙子が部屋
に入ってくる。
妙子「盛り上がってるね? 懐かしい」
妙子の足がコードに引っかかり、コン
セントからゲーム機のアダプターが外
れてしまう。
真っ暗になる、テレビ画面。
立ち上がる澤。
澤「ババア、何やってんだよ!」
驚く、妙子。
お盆の上のコップが転げ落ちて、ジュ
ースが畳に飛び散る。
澤「お前、わざとやってるだろ?」
岸「おいおい……」
妙子に詰め寄る澤。
澤「正直に言えよ。俺に早くいなくなって欲
しいんだろ? 死んで欲しいんだろ?」
右手で妙子の肩を掴み、左の拳を振り
上げる澤。
澤の手首を掴む、岸の手。
岸は、鮮やかな逮捕術で澤を畳の上に
転がし、うつ伏せにして後ろ手に締め
上げる。
岸「お前さっきから、人の失敗を見ると、妙
に感情的になるよな?」
澤「バカが、嫌いなんだよ!」
岸「面白い。俺のバカっぷりでも、聞かせて
やろうか?」
澤「うるさい! 手を離せ!」
澤と岸を見つめる妙子。
岸「俺が、まだ新米警官で交番勤務をしてい
たころだ。近所の小学校の児童たちが街に
出て、ゴミ拾いをすることになってな。交
通安全対策だってんで、新米の俺が同行し
て、見守ることになったんだ」
澤「ガキどもがクルマに撥ねられたのか?」
岸「幸いなことに、それはなかった。ただ男
の子が五十円玉を一枚、拾ったって、わざ
わざ俺のところに持ってきたんだ。めんど
くさいだろ?」
正座をして、神妙な面持ちで聞いてい
る妙子。
岸「たった五十円だぜ? そんなことのため
に、男の子を交番まで連れて行って、拾得
物証明書を書いてやるなんて、やってらん
ねえだろ? 俺は男の子を褒めて、五十円
玉を制服のポケットに入れたんだ。そうし
たら、後ろで見てたPTA役員のオバサン
が怒り出してな。何と彼女も警察官で、子
どもたちに警察官の仕事を教えて、社会勉
強をさせたかったんだと。こってり絞られ
たわ。あなたのやろうとしたことは、業務
上横領ですって」
澤「はいはい。そんなバカ警官でも刑事にな
れましたって話だな? 偉い偉い」
岸「それから、交通課にいたころだ」
澤「もうやめろ! 聞きたくねえんだよ!」
岸「若くてキレイな女と、お婆さんが前日に
駐車場で事故を起こしたっていうから、話
を聞いたんだ。若い女は神妙に、落ち着い
た口調で事故の説明をしてたのに、婆さん
は相手が悪いの一点張りで、大騒ぎ。こん
なん、婆さんが悪いに決まってんだろ?」
澤「もういい、やめろって言ってんだろ!」
岸「俺も頭に来てさ。態度が悪いですよって
婆さんに説教してやったんだ」
澤「黙れよ!」
岸「後で調べたら、若い女は何度も同じよう
な事故を起こしてる、プロの当たり屋だっ
たんだ。駐車場からバックで出てくる婆さ
んを狙って待ってたんだ」
澤「へっ、頭悪いな」
岸「若い女は保険に入ってないから、クルマ
の修理代をよこせとか、医者の診断書を持
ってきて首を痛めただの、やりたい放題。
婆さんが気の毒になってな……」
澤「俺は、聞いてないぞ!」
岸「先入観にとらわれず、ちゃんと実況見分
をしてれば、不自然さに気づけた……」
言葉にならない大声を出す澤。
岸「市民のプライバシーは明かせないから、
婆さんの免許が減点にならないように、手
を回すのが精一杯だった……」
歯を食いしばっている澤。
澤の手を離す岸。
岸「さあ、お前の話も聞かせてくれ」
バンバンと畳を叩く澤。
澤「あいつらが無能なんだよーっ!」
澤の背中をさする妙子。
◯警視庁・外観
◯同・警視正の個室
山本孝志(38)が、イスに座ってい
る。
机を挟み、向かい合うように立ってい
る岸。
机の上には、辞表が置いてある。
岸「警察の仕事は、ああいう奴らが事件を起
こすのを待って、社会から取り除くだけで
す。私は、ああいう奴らが事件を起こす前
に、社会と繋げたいのです」
山本「ごもっともな話だな。しかし、その仕
事を、警察がやってみても面白いんじゃな
いか?」
目を大きく見開く岸。
・主な登場人物
1.岸宣太郎 刑事
【役割】
リーダー
【背景】
新人時代に多くの失敗を経験し、その中で市民の信頼を失ったことがある。
しかし、その経験を活かして犯罪抑止のために尽力する。
【特技】
刑事ならではの人間理解で、メンバーをサポートする。
【内面】
娘と妻への愛情が強く、そのために全力で仕事に取り組む。
2.真田愛子 犯罪心理学者
【役割】
プロファイリング
【背景】
若い頃に一線で活躍していたプロファイラーだったが、ある重大事件での失敗が原因で引退。
しかし、その経験と知識は未だに豊富だ。
【特技】
犯罪者の心理を読み解く洞察力は、チームに欠かせない。
【内面】
冷静沈着でありながらも、内心では過去の失敗に苦しんでいる。
完璧主義的な考えが強く、それが故に自分自身を許せない一面がある。
3.山田隆 元捜査一課のエース
【役割】
実力行使
【背景】
捜査一課で多くの難事件を解決してきたが、ある事件での失敗から引退した。
その後は、民間で防犯コンサルタントとして活動していた。
【特技】
現場での判断や、犯人逮捕の手腕は抜群だ。
【内面】
自分の失敗が原因で人々に迷惑をかけたことを悔いており、その償いとして失敗係に参加する。
情に厚く、仲間を大切にする。
4.吉田麻美 ITセキュリティ専門家
【役割】
ハッキング
【背景】
大手IT企業で、サイバーセキュリティの専門家として活躍していたが、セキュリティの漏洩事件により退職した。
現在は、フリーランス。
【特技】
最新の技術を駆使して、秘密の情報を盗み出す。
【内面】
自身の失敗が会社に多大な損害を与えたことを悔いているが、それを糧に新たな挑戦を続ける。
5.小林健太 元ジャーナリスト
【役割】
現地調査
【背景】
若くしてジャーナリストとして成功していたが、取材対象に対する失礼な行動が原因で、業界から追放された。
しかし、その取材力と情報収集能力は健在だ。
【特技】
観察力とコミュニケーション能力で、現場にしかない情報を集めてくる。
【内面】
過去の過ちを悔い改め、新たな道を模索中。
常に前向きであり、失敗を恐れずに挑戦する精神を持つ。
6.高橋奈々 刑事
【役割】
潜入捜査
【背景】
多くの犯罪組織に潜入し、情報を引き出すことに成功してきた。
しかし、ある潜入捜査での失敗により、仲間を失った過去があり、そのトラウマを抱えている。
【特技】
対人スキルと演技力で、どんな捜査対象の心も開かせる。
【内面】
冷静沈着でありながらも、内心では仲間を失ったことへの自責の念を抱えている。
7.鈴木翔太 ジャーナリスト
【役割】
失敗係の存在を暴こうとする宿敵
【背景】
かつては岸宣太郎の友人だったが、警察の活動に疑問を抱き、独自に調査を進めるジャーナリストとなる。
彼は、警察の秘密のチームが市民の自由を侵害していると確信し、その存在を暴くために活動する。
【特技】
調査力と洞察力、ネットワークを駆使して、失敗係の秘密を暴こうとする。
【内面】
正義感が強く、市民の権利を守ることを信念としている。
しかし、そのために手段を選ばないこともある。
・各エピソードの構成
【1】
数えきれないほどの不審者情報の中から、本当に重大事件に繋がる人物を探し出す、前代未聞の捜査が始まる。
【2】
捜査対象の半生が明らかになるにつれて、メンバーの過去と複雑に絡み合っていく。
【3】
奈々が将来の犯罪者と目された人物と接触し、その緊迫したやり取りを、本部でメンバー全員が聴いている。
【4】
その人に犯行を思い止まらせる方法や、孤立から救う方法を、みんなで考える。
【5】
毎回、異なった展開になる。
・主なテーマ
【現代人の自己愛的傾向】
完璧主義で過去の失敗を消化しきれずにいることが、人生に与える影響を、刑事と捜査対象の両側で描く。
【犯罪抑止は可能なのか】
犯罪を未然に防いで、平和が守られるというシナリオは、あり得るのだろうか。
【倫理的ジレンマ】
まだ犯罪を犯していない人を監視することの倫理的な問題や、彼らの人権を尊重しながらの活動の難しさを描く。