• SF
  • 詩・童話・その他

泡沫の鋳型


 先日、ある読み手の方に、私の物語を講評していただきました。このwebサイトを退会するという近況ノートを見かけて驚き、しかしあと一日あると思って何かもう一言お礼をと考えていたら、想定より一日早く退会されてしまい、もう一言をお伝えできませんでした。自己満足となってしまいますが、今一度ここでお礼を。ありがとうございました。間違いなく多くの方の物語に次への段階へ進むための足掛かりを作っていたと、そう思います。
 一つ、自ら手を挙げ講評いただいたのにも関わらず、一言も、お礼でも感想でもいいのですが、反応を返さない書き手が若干目立ったのが気掛かりでした。読み手は希少で、読み手の使うエネルギーは相当なものです。自らの物語世界に触れてもらうということを、もう少しだけ丁寧に考えて、扱って欲しいと、そう思います。手作りでもいいのです、その物語にはきちんとした表紙が付いていますか。上手い下手ではないのです、その物語はあなたにとって特別ですか。


 少し話題がそれるようですが、「退会する」ということについて。

 残念ながら、このwebサイトの場合は退会と同時にその方に紐づく情報が消えてしまいます。残したコメントであれ近況ノートであれ。それはwebサイトの設計思想としては正しく、恐らく(しっかり目を通していませんが、)利用規約にもその旨が書かれているのでしょう。★の数だけが残っているような気がしますが、ここは少々繊細なところ。その方が自らの痕跡を残すまいと思っていても、その意思に関わらず残ってしまうケースかもしれないからです。★については完全に推測で、今は参照できないユーザが残したものであれ、一度は評価されたのだから作品を載せる側に有益なように、残しているのだと思います。検索エンジンが収集したwebサイトの記録を保持すること、その時点で閲覧できるwebサイトの状態を、個別のファイルとして保持しておくサービス。この場でデジタルタトゥーにまで言及することはしませんが、一般利用者の見えないところ、見えにくいところで行われることが全ての人の思想に完全に寄り添ったものかというと、そうではありません。このwebサイトの利用当初からを振り返ると、気掛かりな去り方をされた方が何人か記憶に残っていることは事実です。
 さて、私はその読み手の方が「痕跡は残したくない」「現時点では追うな」と考えていたと判断しました。しかし、私は私個人の記憶媒体にその方の講評文章を複製して残してしました。そこまで気にされていないものと思います。しかしこれも私個人の推測であり、その方の意思に反したものかもしれないのです。

 私がこのwebサイトを去る時のことはまだ考えていませんが、私の根底にある想いはずっと変わりません。

4件のコメント

  • 気を落とされませんよう。

    その講評を私は拝読していると思います。

    以前にも退会されカクヨムだけでなく、ツイッターもすべて引き払って行かれます。リセットボタンが必要なのかもしれません。

    カクヨムで、抽選のような形で講評作品を募集した時に、以前応募したため知っているのですが。(選にはもれました)

    kinomiさんや知っている作者や作品が講評されている時は、目を通して講評者の感受性や価値観と自分の感覚との相違をつい考えていました。

    「仮装箱」自体もその「物語」の構造もはっきり理解し、さらに展望と可能性に言及できるのは、「書く」行為とは何を醸成するのか、どう向き合うものなのか「知って」いて、その思いが純粋なものに裏打ちされていて澱まないのだろう、と思います。

    無菌の精神状態をキープするのは、琴線の上を歩くような気もします。

    これは私が勝手に抱くこれまでの講評への感想です。ぼんやり側面を見ていたものを少し焦点したものです。

    kinomiさまの「仮装箱」が評者に講評をやっていて良かったと思わせ、救いになったことは事実だと思います。
    読みつけない作品もあったかもしれませんが、予想もしないような事態は起きていないと思うところです。

    気になる去り方の方はいますね、気になる去り方をしそうな方もおります。
    こんなに言葉を扱うのに、いざという時、選べる言葉がひと握りしかない事実に気づいて無力だな、と思うことも。
    すでに見えない所で満水な人の胸には、満たされた水を減らす、あるいはなかったことにする魔法を使わない限り届かない気がします。
    悔しいとすでに敗北を感じながら、ありったけは込めてみますが。

    それも間に合えばの話ですね。
    カクヨムの出入りは一つの選択肢で、どこかで無事でいてくれればいい、とまずは肯定したいです。


    追伸:以前に、★評価画面の「すべて」の人数と★の数が合わないことに気づいて、運営さんに問い合わせたことがあるのですが。
    退会された方が付けた★は、次に★がつくまで残る仕様とのこと。
    例えば、★0の作品に2名が3個づつ付けた直後に1名が退会しても、合計で★6のままですが、3人目が3個付けると、その時点で先の2名分は取り消され、最新の状態(この場合★3)になるようなのです。
  • >日竜生千様

    お気遣いありがとうございます。その読み手の方に起因した靄々には、これ以上は捕らわれずにいられそうです。
    複数の講評者を同じ視点に立って、あるいは一歩引いてみているからこその言葉なのでしょう、私では(参加者の書き手としてその場にいて、そのまま離れたのでは)得られない言葉で、ミトン越しに触れられたようでした。
    「琴線の上」、「澱まないもの」と、どこか尖って見える読み手の方“たち”に何か思うところがあるのですが、こちらはまだまとまりません。もう少し考えます。

    この場でどの程度自己紹介をして、この場以外の交流を含めどこまで開いて。今更言うまでもなく距離感や使い方はそれぞれなのだと思いますが、そうですね、何かをいただいた方々には一つでも良いことがあって少しでも良い方向に進んで欲しいと、無責任に思います。

    > すでに見えない所で満水な人の胸には、満たされた水を減らす、あるいはなかったことにする魔法を使わない限り届かない気がします。

    この一文はとても重い一文でした。その人が閉ざしていたら言葉は届かない。薬にも刃にもなるという言葉が、その人が本当に何かに瀕している時に、その場に転がる“実体の棒きれ”を超えられるのかどうか。心に秘めた言葉で前へ進むことは確かにできるのだと思います。ただ、言葉では代えられないものはやはりどうしてもあって、それを痛感するのは、言葉しか届けられない場所にいる誰かを見つめる時なのでしょうね。

    ★の数について情報ありがとうございます。喉に刺さった小骨が一つ取れました。次の星を一つでも貰えたなら、跡を濁さないようにと飛び立ったはずの鳥に手を振れる…ということですね。
  • kinomiさま

    ま、間違えちゃった。(さ、算数ができない…)
    2名退会しないと、例題の答えになりません。
    誤:1名が退会しても
    正:2名が退会しても

    1名だけだと最終計は★6でございます。(うわぁん)


    >良い方向に進んで欲しいと
    無責任に言うのと、無責任とわかっていて言うのとでは、同じ言葉でも違って聞こえるんじゃないかなと思います。


    >すでに見えない所で満水な人の胸には、満たされた水を減らす、あるいはなかったことにする魔法を使わない限り届かない気がします。

    でも、言葉ごしに知り合った方とは、言葉しか手段がないのです。
    なので、この魔法は言葉で行う……というか、言葉を魔法に変えなければならない、ということを意図しました。

    届かないし、届く気がしなくて、気が遠くなりそうな、それでも言葉を集めて、選んで。

    未熟な魔法使いなので、テクニックもなく「気持ち」を頼りにしてばかりですが、「魔法」の原形態はブレない意志でもある「願い」だと、ファンタジー脳が高じて事実くらいの強度で信じているから。
    手に取れる確かさになる時があるようです。


    そのことは、なんとなくkinomiさまの方が、感覚として知っていそうだと考えるのですが、言葉が作る世界を事実に変える力を手応えとともに知っていそう。

    言葉しか届けられないと思うか、まだ言葉が届くと思うか、ですね。
  • >日竜生千様

    ★の計算はちょっと引っかかって読みなおしましたかもしれませんが意図は分かったので大丈夫ですよ。

    とても純粋で、優しい言葉の探究ですね。物語に込めるものとは少し違う、明確に特定の相手に向けたもの。編み物をするようなその思考が私は錆びてきているのかもと考えていました。いえ、そこまで上等なものは備えられていないのだと思います。

    テクニックは言葉が届く過程で贈り物のラッピングのように解けていく、綺麗なリボンを解いて包装紙を外して箱も開けて、最後に相手が手に取るのが想いであるはず。

    一つ前のコメントをひっくり返すようですが、実体の棒きれを言葉が超えられる、私も底の底ではそう信じています。ロボットが100m走を何度走っても9.75秒から0.01秒も変わらない。しかしヒトと交流して特別な体験を経たロボットは理論を吹き飛ばして9.60秒の記録を生み出す。そのような物語を私は書くと思いますし、その意味では“きちんとした”SFを描いているとは言えないのでしょう。と、この辺りは「物語」の階層に過ぎません。私が飾り言葉ではなく必死に特定の相手に何かを伝えようとしていたのは随分と前のことだったような…。その時何かに辿り着いたかと言われると、これも自信が無いのです。
コメントの投稿にはユーザー登録(無料)が必要です。もしくは、ログイン
投稿する