――ミュンヘンの地下には、怪物が潜んでいる。
住民たちの間でそんな噂が飛び交い始めたのは、ここ十年のことだ。
下水には人とも獣とも取れない呻き声が響く。
月明りに照らされた怪物の影を見た。
化け物が悪の組織の実験動物になっている。
面白おかしく掻き立てられたありきたりな噂は、今では街の子どもたちしか信じていない。だが、全て正しい。
下水のさらに下に建造されたヴィジブル・コンダクタードイツ支部の研究所。
器の完成度が低く討伐しきれない凶悪な偏食種<グルメ>たちを集めた地下施設だ。
厳戒態勢で警備された地下通路に倒れる人影。手練れの警備員たちが全員、鋭利なヒールで急所を一突きされ気絶している。
彼らを順番に追っていくと、牢の入り口に辿り着いた。怪物たちを閉じ込める厳重な檻だ。
支部を預かるフィリップしか開けられない扉の前に、一人の女性が佇む。
「ごめん、なさい……ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
涙声のか細い懺悔が薄暗い地下に響く。
彼女の手には解除コードとウイルスが仕組まれたスティックメモリが握られていた。
焦点の定まらない金色の瞳からとめどなく涙が零れ落ちる。
これから起こる惨劇を予期して動悸が走り、肩で大きく息をした。それでも。
「もう二度と、ミシェルを失いたくないの……!」
制御装置へ差し込んだメモリが解除コードを入力していく。
彼女は美しい銀髪を振り乱し、来た道をひたすら走った。
しばらくして、冷たい檻から怪物たちが解き放たれる。
飢餓状態の彼らは手始めに気絶した警備員の身体を引き千切り、噛み砕き、内臓を抉り出し、殺した。魂を食べるために。
飢えた怪物たちによる終わらない晩餐会の幕開けだ――。
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