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番外編 ある記憶

昔の事を夢に見た。私達を多くの兵士が殺しに来る夢。
当然、殺さなきゃ殺される。後方にいた姉二人を護る為、私は大勢を殺した。五十を殺した辺りからは死体を数えるのを止め、ただ護る為に殺した。
目の前の者は全部敵。殺して殺して殺さなきゃ。波が引くまで殺さなきゃ。惨く醜く殺さなきゃ。誰であろうと殺さなきゃ。
殺しに来る奴等の中には、顔馴染みもいた。それに気付いてからは、敵の顔を見なくなった。手加減も猶予も容赦も不要、温情など殺戮の邪魔。それならば、相手が誰かどうかなんて知らない方がいい。
一晩中殺して、徐々に楽しくなってきた。あんなに意気揚々と向かって来る愚者が、まるで人形のように薙ぎ倒され、果実を潰したような赤い汁を吹き出す。見慣れれば滑稽に思えてきて、段々と気分が高揚する。
敵の波は長く押し寄せたが、三日が経って、やっと終わりが見えてきた。私は遊戯のように敵を殺した。殺して殺して殺して、いつしか笑いながら殺していた。けれど、波が引くのは少し寂しい。現代風に言えば、ついさっきまで使っていた玩具を母親に取られてしまった子供のような、そんな心残り。けれど、一番大事なのは姉を護る事。少しばかり哀愁を感じながら、私は敵を殺し尽くした。
『…ったく、つまんないの。…姉様ー?終わったわよー?』
姉に呼び掛けながら、私は振り返る。童心に帰っていた私は、久し振りに頭を撫でて貰おうかとか、悠長な事を考えていた。
『姉様ー?ステ姉様ー、エウ姉様ー?』
けれど、いくら呼びかけても、どれだけ捜しても。
―――二人の姉は、どこにもいなかった。

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