今回はエピソード内でさらっと触れるにとどめた「穢れ(ケガレ)」についてです。
昔は様々な事柄が「穢れ」「不浄」とされ、基本的にそれらが避けられていました。最大の穢れはやはり「死」ですが、「出産」や「月経」も穢れとされていました(と言っても、出産や月経が「無いほうが良いもの」と思われていたわけではありません)。
死はともかく、なぜ出産や月経が、と感じる方も多いだろうと思いますが、いろんな説があり、はっきりしたことは分かりません。そもそも出血自体が穢れと見なされていたので、それをともなう出産や月経も穢れの内に含められた、という面はあるだろうと思います。
一説に、穢れは元々は「気が枯れる=気枯れ」から来ている、というものがあります。また、穢れの「ケ」は「ハレ(晴れ)の日(改まった特別な日)」「ケ(褻)の日(日常)」の「ケ」であり、「ガレ」は「離(か)れ」で、日常とは隔たった状態を指しているという説もあります。出産中や月経中の女性が、そういう特殊な状態と見なされたのかもしれません。
穢れの状態になったらどうするかと言えば、何の穢れでもそれほど大きくは違いません。他の人たちと隔離して一定期間は接触を避けたり、炊事に使う火を他の人と別にする「別火(べっか)」を行なったりしていました。
出産はそれ用に「産屋(うぶや)」と呼ばれる小屋を建てたり部屋を用意したりしていましたし、月経中の女性も村にそれ用の小屋が作られ、そこに集められたりしていました(地域によっていくらか風習に差はあります)。近親者が亡くなった場合も、古い時代は喪屋と呼ばれる小屋にこもっていました。
穢れの中で、現代でもまだどうにか風習として残っているのが服喪ですが、それすら、喪中はがきを出して年賀状のやり取りをしない以外はかなり廃れているのではないかと思います。昔は喪に服して仕事にも出ない期間がかなり長く、古代だと親が亡くなったら1年間休みがもらえましたし(明治時代は50日)、きちんと精進潔斎の生活を送っていました。
ちなみに、出産の穢れは男性にもかかってくるもので、江戸時代だと子供が産まれたらその父親は7日間仕事が休みでした(仕事の都合で短縮する場合もありましたが)。猟師や漁師も、狩りや漁に出るのを控えたと言います。
現代は人の暮らしに合わせて風習も変えてしまうことが多いですが、昔は人が風習に合わせて暮らしていました。「――奇獣流転譚―― その音を知る者へ」はそういう時代(とよく似た世界)の物語です。