2017年にヴォーカルのチェスター・ベニントンが亡くなり、以来活動を停止していたリンキンパークが、女性ヴォーカリストを迎えて再始動した。
以前から女性ヴォーカルになるらしいというような噂はでていたので、本当だったのかと思いつつ、しかしまったく想像ができず複雑な気持ちだった。とはいえ、男性ヴォーカリストであったとしても、チェスターの代わりとして受け容れられるかどうかはわからなかった。
チェスターの声は唯一無二だ。あの苦悩や悲哀を体現する繊細な美しい声と、怒りを爆発させるかのような激しいシャウト。魂の底から響いてくるチェスターのヴォーカルがあってこそ、リンキンパークは『Hybrid Theory』と『Meteora』という比類無き傑作を生みだすことができたのだと思う。
新ヴォーカル、エミリー・アームストロングと新ドラマー、コリン・ブリテンを迎えての新曲は、とてもリンキンパークらしい懐かしささえ感じさせるものだった。エミリーの声も違和感なく融けこんでいる。気になってちょっと調べ、YouTube で配信されていたお披露目ライヴが視られると知り、早速観てみた。
結論から云うと、なにも文句の付け所などなく、納得するしかなかった。
先ず、エミリーが変にセクシーな女っぽい恰好をしていないことにほっとした。欧米の女性ミュージシャンってなんだか露出が激しいのが当たり前みたいなところがある……それ自体に否定的なわけではないけれど、リンキンパークでそれをやられるのは抵抗があったと思うのだ。
ルーズなカーゴパンツを穿いてモニタースピーカーに足をかけて歌うエミリーは、とてもかっこよかった。リンキンパークのライヴの定番曲も原曲キーで歌い、喉が潰れるんじゃないかと心配になるほどのシャウトを聴かせてくれた。観客の煽り方やマイクを向けるタイミングなど、チェスターとまったく同じでリスペクトも感じられた。
むしろ、あまりにもチェスターを彷彿とさせるシャウトを連発してくれるので、やっぱり「代役」的なあれなのか? とも思ってしまった。チェスターリスペクトはいいけれど、物真似なら要らない。チェスターとはまったく違うヴォーカルで、新生リンキンパークを見せてくれるほうがいい。
そんなことを思い、ライブを観たあとで、エミリーが同じくリードヴォーカルを務めているという、デッドサラというバンドを視てみた。
そして驚いた。彼女はチェスターに寄せて歌っていたわけではなく、元からあのシャウトを聴かせていた。バンドも、私が知らなかっただけでけっこう有名だったらしい。すごくいいバンドだった。
なるほど、と私はようやく納得した。リンキンパークの新ヴォーカリストとしてファンが受け容れるかどうか以前に、まずマイク・シノダが認められる人材でなければならなかったのだ。……あたりまえのことだけれど。
ニューアルバムは11月15日にリリースされるという。Spotify のページも既にエミリーを中心に据えた画像に変わっていた。私はニューアルバムを心待ちにして、またリンキンパークの音楽を聴き続けると思う。そして、おそらくだんだんとエミリー色に変わっていく新生リンキンパークに、耳も自然に馴染んでいくだろう。いつまでもチェスターの影を引き摺っていては、バンドが死んでしまう。マイクは頭のいい人だ。そのくらいとっくに承知だろうと思う。
だけど、やっぱりたまらなくて、聴きたくなってしまった。エミリー以上のヴォーカルはいなかっただろうと納得はしつつ、今はチェスターの歌声を聴いている。唯一無二の、彼の声を。