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読書ノート02『予告された殺人の記録』ガルシアマルケス

 『予告された殺人の記録』を読みました。著者はコロンビアの作家
G.ガルシアマルケス。面白かったです。

  コロンビアの田舎町で、アラブ移民の青年がメッタ刺しにされて死にます。そこから物語が始まり、そしてそこで物語が終わる。ガルシアマルケスの小説は時間の流れが入り混じるように描かれることで有名ですが、それがまたかえって読者を物語にひきつける不思議さがあります。

 また、語り手が「私」であることから、多くの事実は必然的に伝聞として語られます。人々の語る「真実」は「事実」ではないのかもしれませんが、だからこそその意味が強く人々の中に残り語られ続ける歴史になるのかもしれません。

 「事実」を知る人たちが、自分のこころに任せて「真実」を語る。これがこの小説では繰り返されており、「事実」が重要でありながらもそれを必要とせず社会が「真実」に向かっていくさまが描かれています。都合のいいものが「真実」であり、そして必要なものこそが「真実」なのでしょう。味付けのない「事実」は、誰も知らないほうがいい。

 予告された殺人は成立しました。もちろん合意の上の殺人ではなく、皆が殺人を阻止しようとし、アラブの青年は逃げまどいますが、それでも殺されてしまいます。ここにはあらゆる勘違い、慢心、行き違い、嘘が生起します。このしかるべくして起きた殺人事件は町の人々の暗い感情の存在を思わせます。そしてその暗い感情を隠しているのが、あるいは愛なのかもしれません。ただ、それでもいいと思わせるほどの力が、この小説にはあります。最後に引用。

***
「さてと」と彼は言った。「やって来たよ」
 彼は着替えの詰まった旅行カバンのほかに、もうひとつ同じものを持ってきていた。それには彼女が彼に書き送った、二千通余りの手紙が詰まっていた。手紙は日付の順に束ねられ、色つきのリボンで縛ってあったが、すべて封は切られていなかった。
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【文庫版112p】



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