むかしむかし、中華一番な大陸奥地のとある里に、「パン太郎」というパンダがおりました。
この里にはたくさんのパンダがくらしていましたが、パン太郎には、ほかのパンダとはちがう特徴がひとつありました。
それは、山にはえている「笹」をまったくたべられないということでした。
ほかのパンダたちが毎日寝転がりながらモショモショとむしゃぶっている笹を口にできない、最大のりゆう。
それは、笹をたべるとパン太郎がおかしくなってしまうためでした。
なぜか、またぐらのあたりがどうしようもなくムラムラもんもんしだして、そこいらじゅうで大暴れしたくなってしまうのです。
そんなパン太郎は里のほかのパンダたちにとって、ぶべつの対象でしかありません。
「あのムラムラパンダめ。やつは里のつらよごしじゃ」
「くくく、やつのまたぐらは、われらパンダの中でもさいじゃく……」
このようなこころないばりぞうごんの数々に、パン太郎のガラスのハートはきずつくばかり。
しかし、そんなパン太郎にも転機がおとずれます。
ある日、パンダたちの毛皮をあつめてふさふさ素材の白黒マルチをつくろうともくろむ密猟者の一団が、里をしゅうげきしました。
パンダたちはみな散り散りにとうぼうしましたが、ひとりのんびり裸で日光浴をしていたパン太郎は、みごとににげおくれてしまいました。
やがてつかまって密猟者たちのまえに突き出されたパン太郎は、尻を突き出しながらふるえていのちごいをはじめます。
「ぼくの毛皮はごわごわしているので、マルチには向きません。せめて王室ごようたしのレッドカーペットにしてください!」
と、こんらんのあまり無茶苦茶なことを要求するしまつ。
すると密猟者の一人が、そんなパン太郎のふてぶてしい姿を見て、ポツリと言いました。
「おまえはとてもふつうのパンダとは思えぬ。そうだ、笹だ。笹をたべてみろ」
そのことばに、パン太郎はギョッとめをみひらきます。
「ぼくは笹はたべられません。たべると、からだがおかしなことになってしまうのです……」
そのむかし、住んでいた故郷の国有林の笹を血も涙もない野良パンダどもに食いあらされて以来パンダにぜつぼうしていた密猟者は、このひとことにいたく感心しました。
「なんと。笹をたべないとは、やはりおまえはただのパンダではなかった。わたしは感動した!」
そして、なぜかパン太郎と意気投合した密猟者は、里の腐れパンダどもをねだやしにした後、パン太郎を自身の故郷につれてかえることにしました。
まさかの展開におどろきつつ、もうほかのパンダにつらよごし呼ばわりされることも、同調圧力にくっして笹に囲まれた場所に住むひつようも無くなったパン太郎はよろこび、密猟者としあわせにくらすことを決意しました。
……ですが、げんじつのきびしさは、ようしゃなくパン太郎にきばをむきました。
密猟者につれられてやってきた、かれの故郷。
なんとそこは、じゅうみんの苗字の99ぱーせんとが「笹川」という、とんでもない笹川さん密集集落だったのです。
もちろん、密猟者自身の苗字も笹川でした。
こうして、またしても「笹」に囲まれてしまったパン太郎は、とうぜんのきけつとして、ムラムラもんもんがとまらなくなってしまいました。
そして、パン太郎はムラムラもんもんのふんまんを「でんぷしー・ろーる」という形で密猟者にぶつけてぼこぼこの血祭にあげると、そのまま集落をだっそうしてしまいました。
その後のパン太郎の行方を知るものは、だれもいません。
うわさでは、いせかいにてんせいしてモテモテの「はあれむ」をきずいたとか、かんふーを極めて某あめりかえいがに出演し、そのまま世界的「大すたあ」になったとか、「はちろく」と呼ばれるくるまを駆って、とうげのはしりやとしてなをはせたとか………。
しんじつはさだかではありませんが、かれはきっといまも世界のどこかでムラムラもんもんとしていることでしょう。
この物語を読んだ、苗字もしくは名前に「笹」がはいっているあなた。
あなたが夜道をひとり歩いている時、ふと背後を振り返ってみると、そこには鼻息を荒くして欲情した巨大なパンダの姿があるかもしれません……。