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偉大都市・覚書①

(自作について、少々メタ的な話をします)

 このあいだ実家の部屋をごそごそしていたら、5,6年前にこさえたノートが出てきた。ほとんど着手することのない小説のアイデアをつらつらと連ねるためのノートだった。
 ぱらぱらめくってみて、驚いた。ぼくもすっかり忘れていた、楽園殺しシリーズのいちばんはじめのアイデアが書かれていたからだった。
 これにかんしては本当に存在を忘れていた。たぶん、応募原稿を書いた時点でも、あまり覚えていない内容だったのではないかと思う。
 話の舞台は、都市ではなかった。ロードムービーのきらいがあって、終盤になってようやく都会に辿り着くようだった。砂塵粒子の設定はあったが、細かな部分はもろもろ違った。
 主人公はまったくの別人で想定していたようだった。おそらく少年であり、この少年のことは、たった今のぼくはほとんどなにも覚えていない。作中にはなにやら大陸鉄道のようなものがあり、砂だらけの世界を進む特急列車のなかから話がはじまるようだった。このあたりはわずかだが本編があった。
 少年の能力はここでは伏せるが、主人公らしい感じだった。しかし日にいちどしか使えないようだ。めんどうな縛りだ。
 このときはインジェクターまわりの設定が違った。これは応募原稿にも引き継いでいたので覚えているが、はじめの時点では登場人物たちの装備は、「ドレススーツ」と「マスク」の二本柱だった。
 ドレススーツは、ようはぴったりとしたボディスーツのたぐいで、これの首元にインジェクター装置が付属しているという仕組みだった。砂塵粒子が今よりもさらに凶悪で、肌に触れているのもよくないという設定だったからこうなっていたのだと思われる。
 つまりキャラクターたちはみな服の下にぴっちりアンダースーツを着ていたわけだ。さらに流通している戦闘用のスーツには三種類あって、バランス型とパワー型とスピード型があり……、等といったことをやっていた気がする。
 あまりいい設定に思えないので、いざ出版のためにすべてを作り直すにあたって、このへんはごっそり変わった。正解だったと思う。仮面のみならず素肌も出せない設定となるとイラストレーター殺しもいいところである。
 ちなみに、チューミーのデフォルト衣装がボディスーツなのは、そのなごりだ。略称でドレスという言葉を持ち出せるのは気に入っている設定だっため、インジェクターと共にマスクに移行させた。

 この最初期の名前もついていない主人公は、都市に着くとなにかしらの大きなイベントをこなすが、じつは敵方のトリックであり、目的が果たされないまま、彼の冒険はいったん終わる(最後に騙されていたことを知って、ものすごく怒って終わるため、バッドエンドのように見える)。
 次のパートでは、道中で出会った、一瞬だけ共闘した剣士のほうに話が移行するようだ。
 その剣士が、今でいうシンの設定を持っていた。どうやらこの時点で思いついていたらしい。そして剣士のパートでは、倒さなければならない存在として「かぼちゃ頭の怪人」が登場していた。おそらくこのあたりのイメージをぼんやりと持ったままリベンジャーズ・ハイに取り掛かったのだと思われる。
 剣士はかぼちゃの怪人を倒すために奮闘するが、じつは最後に、かぼちゃが妹の仇ではなかったことが判明して、なんとかぼちゃと仲間になる。
 その次のパートは「吸血鬼の女編がいい」とのことらしい。だが、そのわりに吸血鬼についてはなにも書かれていなかった。よくあることだが、本文がともなっていない状態だとただの妄想だ。

 この砂塵世界を書くにあたり、大きな設計としては、1巻の主人公が都市をめざす道程で出会った何人かの登場人物が、それぞれのパートの主人公をつとめることになり、最後に彼らが集結して、都市の大きな闇を打ち倒す……という青写真を描いていたらしい。
 ぼくは小学生のころにプレイしたドラゴンクエストⅣのあまりの作劇上のおもしろさに度肝を抜かれて以降、そうした構図の話にしか、本当の意味では食指が動かない。
(ドラクエⅣでは、第1章~4章の主人公たちが5章で集結して、魔王を倒しに行くというドラマの描き方をする。あまり知られていないが、1章のライアンは5章で勇者と遭遇するまで20年近く旅をしていた設定で、ぼくはそれを知った当時、いたく感動していた)

 もちろんそうしたケはそのままであるので、先日発売された楽園殺し3,4巻においても、視点はかなり好きにさせてもらった。
 合うひと合わないひとがいるのはわかる。が、それを踏まえて好きにさせてもらった。
 砂塵世界はそういう出発をしているようなので、おそらく、今後どうなろうとも、そういう書き方からは逃れられないのではないかと思う。

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