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堂々とエロ本を買えないタイプ 2 (完結)

*どうせなのでエッセイとして投稿ようかと思います


私は、堂々とエロ本を買えないタイプだ。

 思春期の嵐が吹きすさぶ中学生時代に突入した私は「もうこの問題からは逃れる事が出来ない」と腹をくくり、真剣に向き合う覚悟を決めた。
 ただ、これも残念な話だが、ご存じのようにエロ本はやがてネットや通販でレジを通さずに手に入れられる時代がやって来る。結局、私も時代に翻弄された人間の一人という事だが今回はそこは深く堀りはしない。

 私は堂々とエロ本を買えないタイプだが、幼少期より絵を描くことが得意だった。そこから導き出した答えは『だったら、自分でエロ漫画を書けば良い』であった。
 素晴らしいことを思いついたと、その時は思った。
 自身の思い描くエロ漫画を無料で、恥ずかしい思いをせずに手にすることが出来る。あのレジを通すときの心臓が破裂せんとする慟哭みたいなものも、『当たり』『外れ』に自身の運を賭ける事ともサヨウナラだ。
 
 計画は想像以上に上手く進んだ。予想以上に発案から作品の完成に時間と体力を要すると気づいたが、好きこそものの上手なれというか『欲望』の生み出すエネルギーに乗った私は、短い期間で腕を上げ、下手なりには納得いくエロ漫画を描けるようになっていた。
 これが中学二年の夏の頃の話だ。

 事件はその年の初冬の十二月に起きる。
 私には『香織』という密かに想いを寄せる同級生の子がいた。
 親同士が教会の役員つながりで小さいころから家族ぐるみのお付き合いをしている。そういう何ともいえない関係性が続いていて、どうにかして彼女との仲を進展させたいと日々もどかしい思いを積み上げていた。

 それは冬休みの課題を丸写しせんと『香織』から借りていたその回答一式を、彼女の母親に頼んで返却した日の夜だった。なぜ彼女の母親にその回答の封筒を託したのかは記憶になく、おそらく教会の年末バザーかぜんざい作りの時に会って渡したのだと思う。

 その夜、実家に『香織』から電話が来た。
 母が取り次いで、部屋でエロ漫画次回作の構想を練っている私を呼んだのだが、母が言うにはどうも『香織』の様子がおかしいと。
 とりあえず彼女から電話が来るという出来事に心を躍らせ受話器を握った。

「あっ、あの……私だけど」
「ん、どうした?」
「……あの……」
「なんだよ」

何だろう、告白か? 私も少々心臓の鼓動が高まる。しかい、冷静に考えてそんなはずはない。そもそも、二人の距離が縮まるような出来事はここ数ヶ月を振り返っても何ひとつないのだから。

「……あの、返してもらった封筒だけど」
「封筒がどうかした?」

「なんか……女の人の……いやらしい漫画が入ってる」

そのとき人間が雷に打たれたらこうなるのだろう、というような衝撃が走った。
 そう、なぜかその日返却した冬休みの課題に自信作のエロ漫画が混入していたのだ。勿論彼女の興味をひく為のハイレベルな恋愛テクニックなどではなく、単なる私のケアレスミスだ。

その後その原稿をどうしたか? の記憶はない。
人間はあまりに悲惨な目に会うと、精神の崩壊を避ける為に記憶を封じ込めると聞いたことがある。それは本当の話だ。

 こうして私の『堂々とエロ本を買えないならば自分で描く』という、天才的なアイデアは思いもよらぬミスで最悪な結末に至った。 

 『香織』はその後、気を使ってか微妙に私と距離をとってくれた。今後どういう風に彼女と接すればいいのか悩んでいた私は本当に助けられた。


 この自作エロ漫画を好きだった女の子に見られるという最悪の体験は、確かに最悪なのだが、やはり話題としては面白いようで、長い人生の中で私を助けてくれた。
 老人から子供まで男女問わず非常に受けがいい。時間も5分から60分のバージョン構成で話を用意していて、話題に困った時には本当に使える。
 お偉いさんと二人の出張時などに話題がとぎれてシーンとなり、気まずい思いをしたことは一度もないのだ。

 
 結局のところ、私は今も堂々とエロ本を買えないタイプだ。

コンビニや書店で興味をひかれる表紙のエロ本があったとしても、迷わず購入する勇気がない。店員さんが男性でも、お年を召した男性でも購入する勇気がない。
 「月詠さんってダークスーツが似合いますね」という渋みがかった年代に突入しようがそれは変わらない。

 ただそれは非常に深刻な問題であるが、申し上げたように何故か私の人生に笑いと彩りを与えてくれた。

 これで『香織』が、なぜか生涯の伴侶になったと言えば最高の物語になるのだが、それはで自慢たらしくなるので、貴方の想像にお任せしようと思う。
 

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