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この傲慢さをあなたに

 お待たせいたしました。
 新作『世もすがら』無事公開することができました。
 本作のテーマは「信仰心」です。これはここ数年の私の重大な考え事の一つでした。作中では、その壮大なテーマについての私の一つの──あるいは幾つかの答えを述べているつもりです。
 私ごとになりますが、今回の作品は非常に難産でした。作品の発端自体は約3年前に遡るのですが、ここに至るまで、書いては消し、書いては消しを何度も繰り返し、時には殆ど完成していた文章を丸ごと削除してしまうようなこともありました。私自身変化の多い年頃でして、半年、早いときには一月過ぎるだけでも心境が全く別のものに移ろってしまうのです。ほんの数週間前に確信したはずのことが、その時になると理解出来ない代物になっていたり、かと思えば、納得いかずに削除してしまったはずの内容が後々驚くほど腑に落ちたり……。
 自分でさえそうなのに、外界の状況もまた激しく移ろっていきました。もちろん私はその影響から逃れることはできません。それこそ、3歩進んで2歩下がるようなもどかしい毎日を過ごしながら、その中に確かに存在する普遍的な要素をなんとか見出さなければなりませんでした。幸か不幸か、そのような状況もまたこの作品の運びに作用しました。
 処女作『箱庭のクレマチス』が「始まり」を称える物語なのだとしたら、本作は「終わり」を見つめる物語になるはずでした。しかし、私自身が途中の身であるためか、物語は思いがけず「途中」を感じる所へと転がっていきました。これは自分でもまったく意外なことでしたが、一つの収穫として満足しています。
 大きな絶望がありました。多くの失望がありました。それでも、そこにある希望から目を逸らしてはいけない。時代は停滞こそすれ後退することはない。
 そんな突飛な夢物語をいかに厳しく見つめ、最後にどうやって肯定することができるのか。ただそれだけに賭けた作品です。少々難解な内容になってしまったのではないかと自分の中で一抹の不安を残していますが、作品の雰囲気を感じていただくだけでも結構ですので、どうぞお気軽にご覧下さい。
 どうか私の投げ捨てた花弁が、それを必要とする誰かのもとに流れ着くことを祈って、この作品を贈ります。

(2021年2月掲載、2022年12月再掲)

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