ずんだはごしごしと目を擦った。
先ほどからスコープを横切る影・・・・・・ゾンビではないなにか。見間違いだろうか。
銃を置き、眼下を凝視する。10秒も待たず、ずんだの目が大きく見開かれた。
女の子だ。14、5歳くらいに見える。スカートを翻し、ゾンビの眉間に的確にナイフを突き立てていく様は踊っているように軽やかだ。
「あっ」
ずんだは思わず声を上げた。
彼女がナイフを突き立てた相手が、どう見ても人間に見えたからだ。
「君!なにしてるんだ!」
声なんて届くはずがないのに、考えるより先に叫んでいた。
ぴたりと女の子の動きが止まった。偶然にしてはあまりにもタイミングがいい。
突然、女の子が走り出した。こちらへ向かってくる。襲い掛かるゾンビをものともせず走って来る。近づくほどに密度を増すゾンビの背を、肩を、顔を踏みながら迫って来る。
たんっと最後に飛躍すると、女の子はずんだの目の前に降り立った。
「なに?ナナシになんかよう?」
かくんと首を傾ける。
「えっと」
ずんだは言葉に詰まった。
まさか聞こえるとは思っていなかった。
それに女の子と、しかもまだセーラー服を着ているような年齢の子と何を話せばいいか分からなかった。
「えっと、その、君がさっき刺した人、ゾンビじゃなくて人間、だと思うんだけど。それにあんなとこにいたら危なくない?俺以外にも撃ってる人いるし巻き込まれるよ。」
ずんだの顔が赤く染まる。後半はかなり早口になってしまった。
「え?心配してるの?」
ナナシがきゃはっと笑う。
「そんなの必要ないのに~」
見て?とナナシが指し示した眼下は、一変して冬の景色だった。
崩れ落ちたゾンビの欠片が青く白くきらめいている。欠片に触れたゾンビが凍り、また崩れ、その欠片にまた触れてと、見る間にその範囲を拡大していく。
雪景色の中心には大人2人分はある旗。煌々とはためく旗の足元には・・・・・・先ほどナナシが刺したゾンビの服が落ちていた。
「ね?みんなゾンビなんだよ」
ナナシはきゃははと笑った。
240203脱稿