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物語が始まらない『キャトられ』

 どんっと強い衝撃が走った。
 通勤中、信号待ちをしているときだった。
 混乱する中、ブレーキを踏んでいるにも関わらず、前に進んでいる気持ち悪さがあった。
 レバーをパーキングへ入れ、サイドブレーキを踏み込む。
 ここで初めて甲高い警告音が鳴っていることに気がついた。警告音を皮切りに周囲の音が一気に流れ込んでくる。
 大丈夫ですか?出れますか?若い男性が窓をバンバンと叩いている。
 外へ出ようとしてシートベルトに押し戻された。もたもたと外し扉を開ける。
 外へ出て、ここでようやく、どうやら僕は後ろから当てられたらしい事に気づいた。

 誰か通報してくれたらしく、すぐに原付の警察官が到着した。
 通勤時間だったこともあって、目撃者も多く、僕は完全に被害者ということになりそうだった。

 ただ、ひとつ問題があった。
 後ろの車に人が乗っていなかったのだ。
 目撃者の話では誰も出てきていないらしい。信号までは普通に走っていたということで、無人の車が偶然動いたという訳でもない。
 警察官も首を傾げるばかりだ。

 警察官が更に増え、ぶつかってきた車のドラレコを見ようという話になった。

 映像には僕の車が写っている。

『ヘリ...3機って珍しいな』

 運転手の声か?独り言を言うタイプらしい。

『ん?ヘリかぁ?あれ。えっ』

『ンヴヴヴ...ゴンッガゴッピーピーピー』

 あ、当たった。
 映像は人が集まって僕が車から降りてと続いていく。
 誰かがこの車から降りた気配は無い。

 運転手はどこへ行ってしまったのだろうか。


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