今日は、左腕にサイコガンを持つ男について語らせてほしい。
私が彼に出会ったのは小学生の頃だったと思う。
コンビニの漫画コーナーだった。
今更ながら、小学生にあの内容はなかなか過激では?と思うが、出会ってしまったものは仕方がない。当時は国民的猫型ロボットの横に、某泥棒3世や彼の漫画が並んでいたし、立ち読み防止のフィルムもかかっていなかった。
白状すると、当時の私は立ち読み常習犯だった。理由は忘れたが頻繁にコンビニに滞在する必要があり、スマホどころか携帯電話も持っていなかった私の唯一の暇つぶしは漫画を読むことだった。
当たり前だが、コンビニの漫画は立ち読み客の為にあるわけではなく、販売するために入荷している。頻繁に入れ替わるものではない。順に読めば、自ずと新たなジャンルに手を出すことになる。
その世界はとても魅力的だった。
洗練された描写と粋な言い回しの虜になるまでそう時間はかからなかった。読み終わった後は、それこそ1話の彼のように肩で風を切って歩いたものだ。
彼は、恋心も憧れもすべてを盗んでいった。
彼と共に幻の山を登り、愛する人の死に怒り、宿敵と幾度となく対峙した。親友と共に美術館から脱出したときは歓喜したし、最愛の人を奪還すべく記憶に潜った時は、顔を変える前の彼にどきりとしたものだ。
時が流れ、コンビニに滞在する必要が無くなった。同時に彼の世界へ足を踏み入れることも無くなり、よき思い出として箪笥の隅へ片付けられてた。
そして今、大人になった私の本棚には黒い背表紙が全巻分並んでいる。(正確には全ストーリー分だ)
改めて読み返してみると、自分がほとんどのストーリーを覚えていることに驚くし、小学生がこれを読んでいたのかと苦笑する。
それでも当時の私が飽きずに読めていたのは、ひとえに魅力的な登場人物達のおかげだろう。ハードボイルドというジャンルに初めて触れた作品だった。
新しい冒険は出来なくなってしまったけれど、私の中で彼は生き続けると思う。
粋な言い回しは出来ないし、強靭な精神力も持ち合わせていない。それでも彼のようにピンチを楽しみ、弱きを助ける人間でありたいと思う。