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暇つぶし続々10

 ヴァイスがグリーンソイ食べない宣言をしてから三日が経過した。
 彼は宣言通り二日目はグリーンソイを使用していない食品にありつき、リテイカーとしても動きが洗練されていき、そして三日目にしてやっと纏まったマターが貯まったのでシュバルトはそろそろかと声をかける。

「教導の中級編といくか。装備品の買い方を教える」
「はい、教官!!」

 うきうきのヴァイスだが、装備品を揃えると財布はすっからかんになることを彼は分かっているのだろうか。それはそれとして、初めて自分の稼ぎを使って買い物をするため初任給を握る新人会社員みたいなテンションなのかもしれない。

「まず銃だが」
「はい!」
「今日は買わないので触りだけ説明する」
「買わないんですか……てっきりX-8を買え! って言い出すかと」
「もちろんおすすめではあるが、今は別にいいだろ。X-1はポイントγまで問題なく通じるだけの精度と威力があるし、何より頑丈で手入れしやすい。今はそれより別の装備を揃えて生存率を上げるのを優先した方が効率的だ」
「この効率厨!」
「効率が悪いほど死に近づく。俺たちに残機はないんだからな」

 新型銃への期待値が高かったせいかヴァイスは露骨に肩を落す。
 せっかくタダで貰えるX-1なのでよほど摩耗したり破損しない限りは使い続けた方が絶対にいい。ヴァイス自身、文句は言いつつ銃のメンテナンスは怠っていないようだ。

「……ちなみに参考までに、教官が買うべきと思う銃は?」
「間に合わせの銃がいるなら最安値のX-1。より危険なエリアに行くとか金に余裕が出来たならX-8。最前線でバリバリに戦うなら普通にX-12への乗り換えがいいだろう。ただ、X-10以降のシリーズは多機能なぶん状態により気をつける必要があるので中古はやめとけ。他は中古でいいが、それも買う前にちゃんと銃の状態を確かめろ。ハズレを引くと返品も出来ないし売値も引かれてもう最悪だぞ」

 回収された銃の中古販売は、検品こそしているが時折大外れが存在する。運搬時の破損、金属疲労、銃身の僅かな歪みや摩耗……幸いにしてハズレはそう多くないが、だからといって油断したときに限ってやってくる。

「じゃあ次。ナイフだ」

 ガンショップを華麗にスルーして刃物売り場に行く。
 刃物売り場にはナイフ以外にも古典的な普通の剣や槍、機械仕込みの震動カッターの類など様々なものが存在する。

「男の子のロマンを擽るカッチョイイ武器盛りだくさんだが、まー楽園内(インナー)で剣術やってたとかよっぽど銃に向いてない限り戦闘用の剣はやめとけ。Xシリーズみたいなアサルトライフルと一緒に使うのは厳しすぎる」
「でかい武器とでかい武器ですもんね。なんならナイフだって一度銃を下ろさないと使えないですし」

 実際には銃にも拳銃タイプのMシリーズやサブマシンガンタイプのTシリーズが存在するが、それらは使いこなすのにかなりハードルが高いので現実的ではない。というか、一度でも間合いに入られたら終わりの対魔含獣戦においては射程外からの射撃が一番ローリスクであり、射程の縮まるサブマシンガンと拳銃は物好きのアイテムだ。

「まぁ人によっては剣を好むこともあるし、機械の付属しない実体剣は銃より丈夫で手入れに手間がかからないので見ようによっては悪くない。これは完全に自分の才能と相談だな」
「そうなんですか? 切れ味の良い剣ほど手入れが難しそうなもんですけど。それに接近戦を挑むなんて馬鹿だくらい言うかと思いました」
「ところがどっこいなんだよ。ほれ、こいつ持ってみな」

 傘立てのように乱雑に商品が突っ込まれたボックスから鞘に収まった剣を引き抜いてヴァイスに投げて渡す。身構えてキャッチしたヴァイスは、予想と違う重量に驚く。

「え、軽っ……! 昨日振り回した鉄材と大きさはそこまで変わらないのに?」
「しかも、なかなか切れ味が良くてちゃんと使えば魔含獣の骨すら一撃で断てる」
「そんなに強いんですか!? しかも値段的には機械剣より安いし!」

 ヴァイスが指さす先には楽園謹製のプラズマブレードや震動剣が並んでおり、どれも1000マターを超える高級品だ。それに対して今彼が握っているのは100マターと値段が十分の一しかない。
 これについての答えは、一応リテイカーが使用できるデータベースで調べれば理由が判明する程度の内容だ。

「ま、古代文明も捨てたもんじゃないってことさ」

 この世界、一応嘗ては剣と魔法のファンタジーな世界だった。
 その数少ない名残が、この剣たちだ。

「この剣たちはな、エデンの完成前に存在した魔力依存文明の中で作り出された合金で出来てるんだ。大昔の品のくせにまったく酸化しない。ただ、精製に魔力が必要だったらしくて今じゃロストテクノロジーと化している」
「うわー、本物じゃないですか!」
「みんな本物だけどなー……」

 言いたいことは分かるが、幸いなるかな楽園外(アザー)には見かけ倒しと不良品はあってもパチモンの品だけは存在しない。
 これらの剣は古代大戦で兵士が握っていた正真正銘本物の剣だ。多分一般兵用のものだが、そんな木っ端品でさえ見てくれは立派で現代に至るまで刃こぼれもせず残り続けているのは感慨深い。

「ま、そういう訳で。しかしお前がさっき言ったように俺たちに遙かに体格で勝る魔含獣に剣で立ち向かうのは普通であれば無謀なので使い手は限られる。しかもこれらの剣は各地のポイントに未だに埋没してるのでX-1以上に中古がダブついてこの有様さ」

 逆に古代の短剣やナイフはあまり嵩張らないし発見しづらいので大人気であり、出土数も多くないので売り場には滅多に出てこない。これらは上位のリテイカーがほぼ独占している状態だ。
 もしかしたら、現文明が一つでも旧文明に劣っている部分があることを認められなくてこんなに安いのかも知れないが、邪推でしかないので真相は不明だ。

「ま、今は気にしなくて良い。お前は銃をちゃんと扱えるみたいだし世話になる日は遠いだろう」

 さて、そんなお得剣があるなら鉄パイプで下級魔含獣を狩るときの作業効率を高めるため買っておけばよいのでは思った奴は鋭いと言いたいが鋭くない。

 確かに狩りやすくはなるが、そもそも圧倒的に利益率の低い下級魔含獣のために武器を買ってわざわざ持って行くというプランが金なしの貧乏人状態と噛み合わないし、先ほどヴァイスが言ったとおり剣とライフルを同時に装備すると「デカイ武器とデカイ武器」の組み合わせでガチャガチャ煩くて引っかかりやすくて動きづらくなるのは必然だ。
 この世界で動きづらいと不意打ちされたりミスったときに無事死亡する。なので、誰もやらないし、やった奴は気付いてやめるし、気付かない奴はもう死んでいる。そういうことである。

 で、話を戻して楽園産のナイフに戻る。

「さて、問題です。両刃ナイフと片刃ナイフ、どっちを買うべきでしょう」
「使い道の多い片刃ナイフだと思います。物を削ったり加工するのに使えるし、邪魔な植物を切るのにも片刃の方がよくて、対人でしか高い効果を発揮出来ない両刃ナイフは使いづらいとか!」
「加工するモンもねえし植物も生えてないこのアザーでその多機能が何の役に立つのかな? 正解は突き刺しやすい両刃ナイフでした」
「あっ、なーるほど……」

 ヴァイスは秒で納得した。
 ここでは楽園内で身に付けた知識が悉く役に立たない。





※シュバルトは最初シュバルツにするつもりだったけど、そうなると二人合わせてヴァイスシュバルツになって流石にアレかなぁと思ってシュバルトになりました。あんま変わってないぞ。

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