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暇つぶし続々5

 銃弾が有料。
 当然と言えば当然だが、平和な楽園内部(インナー)からいきなり楽園外(アザー)に放り出されていきなり命の危機に晒された人間にそこまで考えろというのは酷な話である。

 人によっては試射でとりあえず銃を撃った後にこの問題に気付いて絶望することもある。そしてどんなに嘆いても言い訳しても懇願しても弾丸が手に入らないのでX-1を殴打武器にしてなんとか魔含獣を倒そうとして、出来る訳ないので死ぬ者もいるくらいだ。

 ヴァイスはまさかの事態に激しく狼狽し、最後の弾倉に入った弾丸の数を数え始める。Xシリーズの弾倉はMAX30発と決まっているので、もしもシュバルト式ハントを忠実に実行すると弾倉一つで魔含獣3匹、魔含石はだいたい40マターなので3つで120マター。弾倉が一つ50マターなので70マターの利益に加えて三発の弾丸が余る計算になる。

 ヴァイスは潤んだ瞳で縋るようにシュバルトを見上げる。

「あの……もしかして私、やっちゃいました?」
「誰でもやっちゃうことはある。問題はどうやってリカバリーするかだ。それを教える為に好きに撃たせたしな」
「教官ひどい! いじわる! 悪魔!」
「いじわるな悪魔の方が生き残れるならそうなった方が良いのが楽園外(アザー)だ」

 むくれるヴァイスを連れて、収支がマイナスになった時のための方法をいくつか教える。

「まずは紫より低いランクの魔含獣を仕留めるというやり方だ。魔含獣は魔力量が少ないほど弱い。最弱クラスの灰色の魔含獣はこの辺に落ちてる適当な鉄材や鉄パイプで殴り殺せる」

 ポイントαの端にあるくず鉄置き場からシュバルトは適当なサイズの鉄材を拾う。

「この鉄材は……?」
「第二楽園計画の事故でダメになったやつや、楽園内部の工事で出た廃材だな。なるべく綺麗ですっぽ抜けづらい奴がいい。たまにダクトテープとか落ちてるから、あるなら使っておけ。ここにあるのは金銭的価値はないが全部タダだ」

 この星は人類の数が少ないため、逆に採掘した鉄材を100%全て楽園で使用できるし消費量もたかが知れているのでリサイクルがされない。なら捨てた方が簡単で安価だ。

 二人で鉄材を握って向かったのはポイントαの中でも障害物の多いエリアだ。
 シュバルトはそこに自分が先ほど手に入れた魔含石を置くと、ヴァイスを連れて物陰に隠れる。

(大きな声は立てるなよ)
(……そうか、魔含獣は魔力を求めてこの場所に来る。ということは――)
(レオーの幼体、キティーと呼ばれてる連中が餌に集まってくる。魔含石もないときは手当たり次第に探すしかない)

 暫くすると、キティーがぞろぞろと出てくる。
 灰色や白色のキティーはレオーと同じ生き物とは思えないくらいに小さく、小型犬から中型犬くらいしかない。そのおかげで可愛らしくさえ見えるが、成長したら例外なく人食いになるので情け容赦はいらない。

 ふんふんと魔含石の匂いを嗅いで、中の魔力を吸い取り出したところで駆け出したシュバルトはキティー達を容赦なく鉄材で殴りつけて殺した。

『ピィ!?』
『ギャア!!』

 慌ててヴァイスもついてきたが、驚いて逃げ惑うキティーに情が湧いたのか鉄パイプを振り下ろせないでいた。
 シュバルトはため息をつき、先達として忠告する。

「やりたくないならしなくていい。だがその代償は後で自分にのしかかることになる」
「う、うぅ……うわぁぁあぁぁぁ!!」

 ヴァイスが悲鳴のような絶叫とともに逃げ遅れたキティーの頭を強かに打ち付けた。威力は少々弱かったが、キティーを殺すには十分な威力だった。

 結局、ヴァイスが大声を出しすぎて警戒心を高めたキティーはなかなか見つからず、シュバルトは12匹、ヴァイスは1匹しか仕留められなかった。調子が良いと20匹はいけるので、かなり少ない。

 ヴァイスは暫く自らの手で殺し、首があらぬ方向に曲がったキティーを呆然と見下ろしていた。彼の肩にぽんと手を置く。

「銃とは全然違うだろ。でも、本当は同じことをしてる。罪悪感に差異があるだけだ」
「……はい」

 ヴァイスは摘出ポットで魔含石を摘出する。
 紫の魔含石より更に小さく小石程度の灰色の石が、微かな光を放っている。

「灰色は1マター、白は3マターだ。逃げ回る魔含獣相手に苦労してもたったそれっぽっちだが、ないよりはマシだよな。魔含獣はたまに弱った個体を共食いをするので基本的に幼体と成体は共に行動しないが、成体になりかけの個体はけっこうデカくて強いからすぐに銃で撃て」
「……気をつけます」

 相手が魔含獣であっても、相手を殴り殺す感触を心地よく思わないのは分かる。だが、ヴァイスはそうしたことも含めて自分を納得させようとしているようなので、それ以上は何も言わないでおいた。
 数分後、ヴァイスは次の金策手段を教える。

「じゃあ次はスカベンジだ。今もポイントαのあちこちでバタバタくたばり続けるリテイカー共の死体を漁りに行くぞ」

 その一言に、落ち着きかけたヴァイスの感情がかぁっと熱くなる。

「ここは! ……人でなしじゃないと生きていけないんですか?」
「そうだが?」

 ヴァイスの非難めいた視線を真っ直ぐ見つめ返して肯定する。

「文句があるなら楽園の統治者たちに言いな。俺たちから人権を剥奪して放り出したのに自分はのうのうと暖かいベッドで寝られる連中をさ」
「……ッ」

 ヴァイスは辛そうに顔を逸らし、ぎりぎりと拳を握りしめながら絞り出すような声で「ごめんなさい」と呟いた。「分かったならいい」と言って彼に背を向けたシュバルトは、彼に気付かれないようにため息をつく。

 今の反応で大体分かった。
 彼は多分、そもそもリテイカーではない。

(いまのごめんなさいって、そういうことだよな。こりゃとんでもない厄介事なんじゃねえか?)

 ヴァイスは恐らく、楽園でも特別な権力を持ち『存続委員会』を構成する救世主の弟子の系譜――『神授二十一技家』に連なる人間である。

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