ヴァイスの射撃の腕は、やや下手寄りの平凡だった。
敵に照準してもすぐには撃つなとかいくつかのアドバイスをシュバルトはしたが、銃の構え方もやや怪しいヴァイスの射撃は照準がブレまくり、一匹目はかなり接近を許してやむなく出鱈目に撃ちまくって殺していた。
二匹目は反省を活かして少しはマシになったが、頭に銃弾が当たらずにまたもや撃ちまくって射殺。三匹目もそれがちょっとマシになった程度だった。一応ちゃんと三工程に忠実になろうとする努力は垣間見えるので、今後次第だろう。
多分だが、シュバルトが指導していなかったら死んでいる。
硝煙立ち上るX-1を抱えたヴァイスが、大して動いてもいないのに肩で息をしている。
「難しい……正面から来てくれない……足を狙うのも的が小さくて……」
「まぁ、足に当てるのは慣れないと難しいかもな。俺も角度が悪かったり何度か撃って当たらないようならどこでもいいから当てる方法に切り替える。だから、ある意味お前の動きは正解だ」
「じゃあ、なんで教官は敢えて難しい足を……?」
「足を潰せば機動力は確実に落ちるが、胴体への着弾は相手の気合い次第で耐えられる可能性がある。窮鼠猫を噛むってやつ」
胴体に何発弾を叩き込んでも足が無事なら死力を尽くした反撃をしてくることがある。それに足に当てれば高確率でバランスを崩すので追い詰めやすくなる。だからシュバルトは安全の為に足に当てる技術を磨いた。
「ほれ、いつまでダラダラしてんだ。魔含石を回収しないとおまんまにありつけないぞ。摘出ポット用意」
「ええと、これですね」
水筒のようなシリンダー状の装置、魔含石摘出ポットを取り出すヴァイスだが、ポットに注目する余り銃から手を離している。
「おい、摘出中に敵が来ない保証はないんだぞ。意識しとけ」
「あ、そうか……」
「ポットの使い方は簡単。魔含獣の死体相手にスキャナ機能を発動させてポットが指定した部分に先端をくっつける。あとは自動だ」
ヴァイスが言われるがままにポットを魔含獣の胃袋辺りに触れさせると、ポットから勢いよく刃が飛び出して魔含獣の肉体を切り裂く。そして魔力を強く吸い寄せる鉱石で出来たロボットアームが体内から魔含石を取り出した。
「これが魔含石……意外と小さいですね。拳ほどもない」
「リテイカーはこいつを一生集め続ける運命にある。バックパックに詰めとけ」
ヴァイスがロボットアームから取り外して見つめるそれは、紫色の石の中心部に微かな緑の光がある石だった。
魔含石には色々な色があり、基本的に魔含獣の体色と同じものが出てくる。紫は価値で言えば中頃程度のありふれたものだ。基本的に色が緑に近いほど魔力濃度が高く、普通の石みたいな色だとクズ同然なので捨てられる。
ヴァイスが己の仕留めた二匹の魔含石を回収し終えたのを確認すると、シュバルトは自分が仕留めた魔含獣に近づいてヴァイスに手招きした。
「これ、ちょっとしたテクニックな」
そう言いながらシュバルトはポットが指定した場所にナイフを一度深く突き刺してからポットを当てる。
「何もせずにポットを当てた場合、魔含石の摘出に早くとも10秒かかる。だが摘出を開始する前にナイフで穴を開けておくと?」
「あ……5秒もかかってない!」
「しょうもない手間だがな。体の大きい個体や妙なところに魔含石が出来てる個体だと、摘出に20秒とかかかったりするんだよ。でもこの一手間を入れると摘出時間がかなり変わる」
「敵がいつ来るか分からない状況でその短縮はありがたいですね!」
さっきから敵を警戒して神経をすり減らしているせいか、そこだけヴァイスは察しが良かった。
「ま、この程度の雑魚なら正直普通にポット任せでもいいが、摘出ポットの刃は意外とデリケートで酷使すると折れやすいんだよ。だから負担を減らすに越したことはない。そういう意味でもこのテクニックは多用した方が長期的に得だ」
「はい、帰還したらナイフ買います!!」
「買えないぞ」
「え」
シュバルトはヴァイスのX-1を指さす。
「魔含獣相手に銃弾撃ちまくって弾倉二つ使い切ったろ。弾倉二つの値段はマター換算で100。ナイフは一番安いもので200。そして今お前が回収した魔含石二つはマター換算で精々80マターくらいだろう。つまりお前既に赤字だぞ」
「え……ええ~~~~~!!」
ヴァイスは大きな声を出せばまた魔含獣が寄ってくることも忘れて驚愕の叫び声を上げた。
尤も、来た魔含獣を片っ端から仕留めればもっと稼げるのでシュバルトは止めなかった。
これは、新人リテイカーの誰もが受ける洗礼である。
勿論、解決方法はあるが。