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ひまつぶし続々

 中学まで一緒だった同級生が高校になるといなくて、一体どこに行ったか友達に訊いてみたら「知らない」と言われたことはないだろうか。
 そいつの名前も家も知っている。
 しかし、わざわざ聞きにいくほど親しくもない。
 なんならやや嫌われていたのでせいせいした。
 そんな経験、ないだろうか。

 だがそいつがどうなったのか、シュバルトは『外』の死亡者リストで知った。
 つまりはそういうことだ。

 楽園の中は『架空の時代の架空の星の架空の社会』を世界だと信じ込ませている。
 記憶の帳尻さえ合わせてしまうそれはまさに神の御業で、技術力も資源も本物なので誰も疑わない。誰にも気付かれず、こっそり、余分は排出されていた。
 魔力の枯渇だの星の終末だの魔含獣だのといった話は、その幻想の外に転がっている現実だ。一生を楽園内で過ごす人は誰も知らない。外の人間は二度と中へは戻れないからだ。

 シュバルトがここに来たのは18歳のとき。
 楽園内では15歳で成人であるため、成人後ということになる。
 この辺りが外に出すかどうかの判断基準らしい。

 高齢の状態でいきなり出てくるリテイカーは見たことがないし周囲も知らないそうだが、いないということはなさそうなのでリテイカー以外の用途に使われているのだろう。ひとまずリテイカーの主食になりがちな激安合成食のグリーンソイがその末路でないことを祈るばかりである。これはリテイカーの間では新人をイジるのに使われる爆笑ジョークだが、実際にどうなのか聞かれて「知らない」と真顔で答えるまでがワンセットである。

 ここに来てから三年くらいは何とか楽園に返り咲けないか色々と試してみていたが、どうしても無理そうなので開き直ったシュバルトは身も心もリテイカーになった。やり直しのできないどんぞこの奴隷がリテイカーとは笑えない冗談だが、ジョークは大事にしている。

 さて、そんなシュバルトだが同僚からは『最低記録保持者(ボトムホルダー)』と呼ばれている。何の記録を保持しているのかというと――。

「シューバールート~~~……まぁた魔鉱石こんだけかよ。今時新人だってもう少し稼いでくるぞ?」

 眉間に皺を寄せた妙齢の女性が煙草を咥えてシュバルトの持ち込んだ魔含石の重量を測定し、シュバルトの管理タグに外の通貨であるマターを振り込んだ。
 振込額は500マター。ここからリテイカーの一日分の生活費を引くと、雀の涙みたいな侘しい額が残る。つまり、超薄利だ。

 女性――コチョウはシュバルトの顔面に煙草の煙を吹き付ける。

「ったく、こんなしょぼくれた額でよく生きていけるね。いつになったらあんたはランクⅡに昇格するんだい?」
「けむた……ランク上がったところでどうせ未来ないんだから急ぐ必要ないと思うんですけどねぇ」
「あのな、ランクってのは普通狙わなくても上がるもんなんだよ、生き延びてれば! ランク1なんて適正のないやつは死んであるやつが上がるための場所だろ! なのにあんたときたら死なないくせに魔含石の貢献度は毎度最低なもんだからいつまで経ってもⅠのまま! 『最低記録保持者(ボトムホルダー)』とはよく言ったもんだよ!」
「うぇへへへへ~~~」
「褒めとらんわ! そら、さっさといきな!」

 しっしっ、と雑に手で追い払うコチョウだが、その馴れ馴れしい態度も長く生き残ったが故だ。それにランクがⅠだろうとⅡだろうと結局稼ぎは全て自力なので実はあまり変わりが無い。ランクが上がるほど魔含獣の密集地域に行く許可が下りやすくなるが、そこで死んだら終わりなのでシュバルトにとっては意味が無い。

 そう、シュバルトはユーシャのクエストで城の周りをウロウロして絶対に勝てるスライムばかりを延々と倒すみたいな古の系統を継ぐ男だった。

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