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暇つぶし続々2

 リテイカーの管理ナンバーは使い回されている。
 死んだ奴から番号が剥奪され、次の新人に宛がわれるのだ。
 よって、シュバルトの管理番号が77776だからといって今までのリテイカーの人数が77776人という訳ではなく、また77777番や77775番と親しいという訳でもない。

 しかし、こうも希望のない人生を送っていると人はどうでもいいことにも意味を見出したがり、ぞろ目のナンバーは幸運の証だの何だのと騒ぎ出すことがある。ちなみにシュバルトはもう少しで幸運の数字ともされる7のぞろ目だったので残念ニアピンマンとも呼ばれている。

 ともかく、しょうもない理由でそれはやってきた。

「一番違いのあんたが面倒見な」
「はぁ?」

 魔含石と通貨のマターの交換受付にいつもいるコチョウがそう言って煙草を挟んだ指で差した先には、小綺麗な顔の美少年がうきうき顔でこちらを見ていた。まだ現実の厳しさと恐ろしさを知らず、戦いの刺激をはき違えた子供の目だ。リテイカーの新人なのだろう。

 だがしかし、リテイカーに新人に丁寧にチュートリアルをしてくれるチュートリアルおじさんはここには存在しない。基本的には見て盗むし、それが出来ないなら死ねばいいじゃんという価値観だ。

 だが、問題はそこではなく、コチョウがそんなことを言い出したという点だ。シュバルトはひそひそと彼女に質問する。

(おいおいどういう風の吹き回しだよコチョウさんよぉ。あんたショタコン趣味があるわけでもないし、リテイカーの世話焼きなんて業務外だろうが)
(断るならあんたがエリアαで何をこそこそしてるのか執行委員会に調べさせてもいいけど?)
(……互いに探りは入れない。俺はこいつに基礎を教える。ただし俺が必要だと思うことを一通り教えたら後のことは知らない。最低条件だ。いいだろ?)
(はん、守り抜けだなんて甲斐性あんたに期待するかよ)

 ――コチョウはアザーにいるが、厳密には第二楽園計画を管理する執行委員会の雇われ作業員だ。雇われとは言っても委員会直属に準ずる地位なので、はっきり言って逆らわない方がいい。
 前に彼女を脅迫しようとここで暴力を振るったバカが、委員会の処刑騎士団(ヘンカーリッター)に惨殺されたのを見てからは、特にそう思うようになった。

「……はぁ。おいそこの。名前は?」
「管理番号77777、ヴァイスです!」

 中性的な声色のきらきらした少年は、肌の色も髪の色も白く、日焼けした肌で黒髪のシュバルトとは対照的だった。

「今日から俺が教官だ。さっさとここのルール覚えてとっとと卒業していけ。卒業するまでは俺の指示に従え。従わなくても良いがそのときは死ぬので死ね。いいな?」
「死なないように教官についていくであります!!」

 無駄にキレのいい敬礼をするヴァイスに、大丈夫かなぁと不安になる。
 やる気に満ちあふれたリテイカーの辿る道は二つに一つ。
 夢を見すぎて現実に物理で叩き潰されて死ぬか、不貞腐れて死んだ魚の目のクズになるかだ。

「じゃ、まずは魔含獣倒してマター稼がないことには装備も揃えられん。エリアαに行くぞ」
「了解であります!! えへへー、なんかわくわく!」

 リテイカーの唯一の慈悲は、初期装備にX-1アサルトガン、予備弾倉二つ、魔力検知装置、魔含石回収用の摘出ポットが手渡されることだ。武器、検知装置、摘出ポットはリテイカーの三大装備と言っても過言ではないので、あとは初めて出くわす魔含獣を前にパニックにでもならなければどうにかなる。

 ちなみに、どうにかならなかった場合は死んでさよならだ。
 リテイカーなのにやり直しはなし。爆笑ジョークである。

 石の交換施設を後にすると、そこには建設途中の資材が剥き出しの空間があった。第二楽園計画の活動拠点である。とても施設と呼べるものではないが、一応ここには石の交換施設とマターを用いた買い物の出来る施設、あとリテイカーの部屋がある。
 もちろん贅沢な部屋な筈はなく、ハイテクだがディストピア感に溢れた素晴らしく殺風景で狭い場所だ。

 それらの施設は一応屋根があるが、他は組み立て途中の雑多なもので、これでも一応計画発動初期よりだいぶ進んだらしい。主に屋根がだが。

「なんだか不思議な雰囲気の場所ですね。どこも作りかけだらけです」
「生き残ってればそのうち見慣れる。ほれ、あそこ見な」

 シュバルツは先ほど出てきた換金施設の上部を指差す。
 そこには、緑の燐光を放つ大きな柱があった。
 どこか見ていてほっとするような暖かな光はうっすらと周囲を包んでいる。

「俺たちリテイカーが回収した魔含石は全てあそこに注がれる。あの燐光と共にこの周囲に放たれるエーテルだかマナだかよく分からん魔力の加護が俺らを滅んだ世界に蔓延する病気から辛うじて守ってくれてる訳だ。つまりあそこに魔力をガンガン注ぐほどに俺たちの活動範囲は広まり、第二楽園計画も進む。なめくじ以下の速度でな」
「工事が進まないのはあれの活性化が間に合っていないからなんですね」
「ああ、そうだ。とはいえ何年もかけてコレだからな。まず間違いなく俺らが生きてる間に第二の楽園は完成しないだろうから気にすんな。自分のことだけ考えてりゃいい」

 なので極論教えなくてもいいのだが、知らずに加護の外で長話して肺をやられて死んだ間抜けを見たことがあるので一応教えておくに越したことはない。

「ところで、お前、ヴァイスだったな」
「あ、はい」
「これは俺の個人的な好奇心だが。コチョウとどういう関係か聞いてもいいか?」

 コチョウはリテイカーより完全の上位の地位にあり、リテイカーの安否を気遣ったり計画の効率化のために新人教育を、などと言い出すタイプではない。そもそもそういうタイプは外ではやっていけずに心を壊す。
 よって、彼女が面倒を見ろと言い出したのには必ず打算的な理由、ないし彼女の楽園内での事情があるとシュバルトは踏んでいた。
 これに対し、ヴァイスは――。

「そそそそそそそんなことどうでも良いじゃないですか! ささ、ポイントαにレッツ行きましょう!!」
「誤魔化すのヘタクソ大魔神だな~お前。いいよもう聞かないからさっさと行こう」

 汗をかきにかきまくって視線を縦横無尽に逸らしながらポンコツロボのようなギシギシした動きで先を促すヴァイスのあんまりにもあからさまな姿に追求する気が一気に失せる。
 絶対に、絶対に訳ありであるとシュバルトは確信した。

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