楽園内(インナー)で過ごす大多数の人々には実感はないだろう。
だが、一度でも楽園の外に出れば夢は呆気なく覚める。
この世界はほぼほぼ終わっている。
雑草の一本、虫の一匹すらいないこの大地に復活の見込みなどない。
仮にそれが叶うとして、一体何千、何万、何億年をかければそれが成せるだろう。それまでに一体幾つの骸が大事に転がることになるだろう。そんなレベルの汚染と絶望がこの星を覆い尽くしている。
救世主は確かに人の最後の安息の地を作った。
しかし、その安息の地は数百の年月を経ても当時のまま殆ど拡大していない。
そして、第二楽園計画もまた、計画と呼ぶのが烏滸がましいほど進展がない。
つまり、楽園の外に出たリテイカーに安息は一生来ない。
貢献度を高めることで楽園内のものを買って生活水準を上げる程度のことは出来るが、それは数多のリテイカーのうちのほんの一握りの存在だけだ。多くは単なる消耗品としてその一生を終えるし、まず寿命で死ねることはない。
リテイカーは魔含獣(オルス)と戦い魔鉱石を持ち帰ることでのみ生きる糧を得ることが出来る。終末世界においてサバイバルは不可能である以上、戦えなくなったら飯にありつけないので死ぬしかない。だからリテイカーはどんなに老い、どんなに生き延びてきても戦いに出るしかなく、いずれ限界を迎えて死ぬ。
子孫を残すなど論外だ。
そもそも出産の為の設備そのものがないし、絶対に子供を育てきる前に負担で死ぬことになる。
残った子供は非力なので、当然死ぬ。
リテイカーには子孫を残す権利すら存在しない。
人間、何も希望がないと人間性が終わってくる。
だが、終わった人間にも秩序が必要であり、そのために第二楽園計画を管理する「執行委員会」が存在する。最低限の秩序さえ守れないクズに刑を執行する委員会だ。
ここまで来ると笑えてくる。
リテイカーは生き方も自由も死に場所も、何も得られない奴隷なのだ。
ただ、楽園で生きるのに不適格というだけで。
そんな世界を、彼は独りで生きている。
「というわけで、人生RTAはーじまーるよー。クリア方法は簡単、死ぬだけです。今回プレイするのは世界は全人類が参加するMMOゲーム、リアル俺らの世界。ただしデスペナとして死ぬと死にます。課金要素はありませんが取り返しのつかないガチャ要素がありリセマラできないのでご了承ください」
彼――リテイカー管理番号77776、シュバルトはまぁまぁな割合で狂気に犯されていた。