十年前。皇帝ゲルマニクス:ええぇ…きょうもコーガしはんのとっくん…?摂政ユーディン:はい。陛下には立派な皇帝になっていただかなければなりませんから。皇帝:コーガしはんはきびしいから、ちんはにがてだ…。ユーディン:コーガ殿は隻腕になったとは言え帝国一の武人です。厳しいのは当然、だからこそ陛下は立派な皇帝になれますよ。皇帝:…くすん。ヨルデリアたちもちんにようしゃないし…。ユーディン:ほら、さっさと特訓に行かれませ!
皇帝:……しぬー。コーガ:死にません。陛下、次は魔法の特訓でございます。タイガス君が待ち構えておりますぞ。皇帝:タイガス、しょうらい、だいじんにするからてかげんを…。タイガス:しませんのである!皇帝:ひいいいいい…。
半日後。
ヨルデリア:ごめんなさい、父さん、タイガス!近頃帝都近くまで出て来る人食いクマを素手で倒すのに時間がかかっちゃった!でも美味しく料理できたの!皇帝:ごはん!ちんは楽しみであ ヨルデリア:はい、クマの丸焼き!ドドーン。熊の丸焼き出現。コーガ:うむ、美味い!タイガス:…悔しいが味は良いのである…。皇帝:…ふえええん。くまのしょうしたい…!ふつうのおにくがたべたい…!ヨルデリア:陛下、泣かないで下さい!今、回復魔法をかけますから!えい!皇帝:…(?)(これはかいふくまほうではないぞ?)(かいふくまほう、ひいては、まほうしきとはせいしんりょくをつかってあみだしたまほうほうていしきのはず)(かいふくまほうにこんなむちつじょなかいふくやさいせいなどありえぬ)(どういうことだ…?)
十年後。
皇帝:不老不死か。無限に生きられ決して老いることがない体。この不老不死の欲望に勝てるものもそうそういないだろう。――!ヨルデリアのあの無秩序な回復や再生の力は、まさか!……誰ぞあるか!直ちにコーガ師範を呼べ!
皇帝:これは師範、お元気そうで何より。コーガ:陛下もご息災で何よりでございます。して、このような夜更けに、私めに聞きたい事とは?皇帝:…ああ。ヨルデリアについてだ。コーガ:…やはり。いずれこの時がくるとは、分かっておりました。皇帝:端的に聞こう。ヨルデリアは『何』なのだ?コーガ:…。かつて帝国軍が王国を攻めた時、王立研究所から私が助け出した赤ん坊…今まではそう言っておりましたが、真実は違います。皇帝:…。コーガ:あの子は『夜のレプティアの惨劇』を起こした、『姫』やアマルナイの王族達が不老不死の研究の果てに作り出した最高傑作――『神の子』でございます。皇帝:そう、であったか…。コーガ:私の片腕と引き換えにあの子をただの赤ん坊に戻すことには成功しましたが…いつ、『神の子』が出て来るかも分かりませぬ。皇帝:ヨルデリアに自覚はあるのか?コーガ:ええ。気を付けるように言い含めました。あの子の自我が消えかけると、『神の子』が出てきますので。皇帝:やはり王国へ行かせるべきではなかったか…。コーガ:それは違います、陛下。皇帝:うん?コーガ:あの子が『ヨルデリア』になるためには、行かねばなりません。罪にも罰にも宿命にも全て立ち向かわねば、あの子は本当の己にはなれないのです。皇帝:そう、か…。コーガ:――して、陛下。皇帝:師範?コーガ:嫌な予感がいたします。皇帝:…申せ。コーガ:ここへ参る途中、ワルテロン様とすれ違いました。咄嗟に私は身を隠したので向こうには気付かれませんでしたが、ただならぬ血相をされておりました。3大貴族のお一人、宰相のワルテロン・ヒュバイン公があのようなお顔をされるとは…陛下、どうかお気を付け下さい。皇帝:…あい分かった。