宿にて休憩中。ヨルデリア:今、背筋がゾクゾクした。きっとユーディン様あたりが私のことを言っているんだ…。リトール:そう気にするなよ。っても無理か。ヨルデリア:ユーディン様のブラコンは壮絶だからね…何でもタイガスが一番じゃないと気が済まないんだよ。タイガス:ぐむ。リトール:へぇ。ハルーン:そ、そうなんだ。ヨルデリア:そうだよ。ヨルティーネちゃんがタイガスの許嫁になったのだって、ユーディン様が渋るクルマーン様相手に職権乱用でごねまくったからだし。リトール:クルマーン・ランケール。確か今は司法長官やってんだったな?あっちも娘ラブで有名じゃねえか。ヨルデリア:そうそう。娘に近付いた男はよしんば陛下であれ投獄すると言ってはばからなかった人だよ。それにしてもリトールは宮中のことも詳しいね。リトール:そりゃ情報網があるからな。ヨルデリア:確かに、何も知らずに真面目な貴族のところに盗みに入ったら義賊じゃなくてただの強盗だよね。リトール:…今は義賊の名誉挽回中だがな。ハルーン:うーん。どうしてリトールはそこまで義賊であることを一貫しようとするんだい?リトールほどの腕があったら兵士や役人としてもかなり出世できただろうに。リトール:俺の家族も友達も親戚も全員、『夜のレプティア事件』で殺されたんだよ。ヨルデリア:…!リトール:俺が四歳の時だった。親はレプティアの街の大商人だったから、生きるのに不自由なんてしたことも無かった。友達だって沢山いた。今思えば、本当に恵まれていたんだろう。タイガス:…。リトール:俺は咄嗟に親が地下室に匿ってくれたおかげで生き延びた。でもさ、帝国軍に地下室から出してもらったら、目の前にあったのはその親が魔物になって死んでいた姿だった。ハルーン:…。リトール:後は乞食生活。世間の闇なんてハルーンじゃねえが全部見たぜ。だけど、テメエと俺が致命的に違っていたのは、俺が全くの不老不死じゃなかったことだな。必死に生きている内に気付いたんだ。弱いヤツには味方がいるんだってこと。民衆にはヒーローがいるんだってこと。性根が腐っているヤツ、威張っているヤツの鼻を明かしてスカッとさせてくれる…そんな存在を切実に欲しがっているってこと。だったら俺がやってやろうじゃねえか。親が折角生かしてくれた命だ、誰かのために有効に使ってやろうじゃねえか。まあ、そんな気分で悪徳商人のユグラー家にたった一人で盗みに入ったのは一六の時だった。ヨルデリア:…そう、か。リトール:人を殺害しないこと、女子供に手を上げないこと、盗んだ金は貧しい民衆に気前よく分け与えること、盗む相手は吟味すること。変なモンでこれだけ守っていれば何故か今まで生きてこられたし、仲間も増えていったんだ。今更俺は義賊以外として生きたいとは思わねえし、義賊以外の生き方なんて考えられねえよ。ガキ共のがっかりした顔なんて見たくねえからな。タイガス:意外に貴様は優しいのであるな…。リトール:意外って何だよ、おい。