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くろてんゲーム化エッセイ-20.世界包括神話-5.メソポタミア編(1)

 最近これを更新してませんでしたので、世界包括神話の5、メソポタミア編をやりたいと思います。ちなみにアイヌ神話とかもやりたいんですが、手元の資料が「ユーカラ」と「カムイユーカラ」の2冊しかなく、アイヌ・ラックル(オキクルミ)伝説やら虎杖丸の話はともかくとして創世神話がわからんのですね。だからこれは資料が揃うまであと回し。ちなみに最近、故ジョーゼフ・キャンベル氏の著作をいくつか読みましたが、あの人こそ我が心の師匠と仰ぐべき人でした。神話や歴史を知らないで成長したとしたら、それはひどく虚しいことでしょうねと言う精神性がまったくといっていいほどに相似で、そのうえで今の自分の1000歩先を行く知識。自分もいつかあそこにたどりつきたいものです。

 さておきましてメソポタミアの神話ですが、まず地理的なことを。「メソポタミア」というのは「川の間」を意味し、チグリス川とユーフラテス川の中間地帯、チグリスの語源としてはシュメール語のイグディナ、あるいはアッカド語のイディグラトに拠ります。ユーフラテスの語源はシュメール語プラヌンらしいですが、こちらはほとんど原型ないですね。まあだいたい、イランの西から地中海、ギリシアの手前あたりの結構広い地域に跨がります。

 メソポタミア最初の古人類というとウバイド人とかになりますが、やはり最初に文明と言葉を持った人びととなるとシュメール人。もともとはこの地の人種ではなく、海の彼方から来たとか山を越えたてきたとか諸説あって判然としません。出土品の図像などから察するに東方系の人種? という説が有力。男性は頭を剃っているのがほとんどだったといいますから、あまり現代的に美男子というイメージではないかも知れません。中国北斉の蘭陵王こと高長恭、あのひとも高車族=弁髪面長だったはずで、現代日本人から見ると「ラーメンマン」にしか見えないはずなんです、時代ごとに美形の定義変りますからね。で、巻きスカートが普通だったと。その彼らが建てた都市国家ウルとかウルク、ラガシュなんかに創建された神殿で崇拝されたのが世界最古の宗教ということになります。ちなみに神殿における巫女は神聖娼婦と言うのを兼ね、これが世界最古の職業であったことは案外有名。あと神殿中央にはジッグラトというピラミッド状建造物があり、シュメール語でエ・テメン・アン・キ(天地の基の塔)といわれました。この最も有名な者がバビロンのそれで、いわゆる聖書の「バベルの塔」です。

 シュメール人の時代から数百年するとアッカド人が入ってきてシュメール人を征服、都市国家アガドを首都にしてアッカド王朝を立てます。ここでシュメール神話とアッカド神話という二つの流れに分岐、さらにアッカドがバビロニアとアッシリアに分かれてここでも話が分岐していきます。楔文字とかハンムラビ法典なんかにも言及したいところですが、これ神話ばなしなのでさっさと神話に行けという話ですね。それでは次から神話。

 まずシュメールの最高神は天神アン(アヌ)と地母神キ。この二人が夫婦神で、間に産まれたのが嵐神にして大気の神エンリルを筆頭とする「アヌンナキ(貴き神々)」たちですが、これがアッカド神話になるとエンリルは主宰神から降ろされてマルドゥークというバビロニアの主神に代わられます。といってもまずはシュメール神話主体で話を進めますので、エンリルを主神として考えます。

 エンリルから産まれたのは月神ナンナル、太陽神ウトゥ。ナンナルから金星神にして愛の女神イナンナが産まれます。この神話の系譜として主流はニッブールなのですけど、のちにエリドゥの主神エンキ(智慧と水の神)がエンリル弟神として祀られるようになり、アトラ・ハシース物語……いわゆるノアの箱舟の元ネタですが……で人類を救済するなど、アヌンナキの中でも最重要な役割を果たすことになります。アッカド神話においてもほぼ、これらの神は名前が変わっただけでそのままに存在し、エンリルはベール、イナンナはシン、ウトゥはシャマシュ、イナンナはイシュタルとなりました。有名どころの神としてはエンリルの息子・戦神ニンギルス、禍の神にして冥府の王ネルガル、そしてのちにキリスト教の唯一神ヤーウェの母体となった山と嵐の神アダドなんかがいます。

創世神話
まず天地が無極から起こり、天地の中から天神アンと地母神キが産まれます。アンとキの間にアヌンナキが産まれ、彼らから多くの神、女神が産まれました。

 この当時天地はまだ別たれておらず、ウルクリムミという巨人がひとりで天と地をつなぎ止めていました。この巨人はすべての神が束になってもかなわないほど強大な存在でしたが、智神エンキは天の金床で造った大鋸によってウルクリムミを殺し、天と地を切り離したということです。

 天地が別たれ、天にはアヌンナキが、地には下位の神々が暮らすことになりました。全ての神々の最高権威者は、大気と嵐の神エンリルです。天地が別たれ、イディグナ川とブラヌン川が定められると、エンリルはほかのアヌンナキたちに次はなにを造るべきか尋ねます。これに応えた二人の神が「ニップールの神殿ウズムアで、工芸神ラムガの血から人間を造りましょう」といいいましたが、人間の役割は最初から神々の仕事の肩代わりをする、労役奴隷として生み出されることを約束されたものでした。かくて創造された最初の男をアンウレガルラ、女の方はアンネガルラと名付けられます。彼らは土地を耕し収穫し、神殿を清めて祭祀を行うよう命令されました。その恩恵として神々は様々の知識と智慧を、人間たちに与えます。ちなみに最初の人間は全裸で水中に住み、必要以外地上にはいなかったし地上にも牛や羊などの獣はいなかったと言うことでした。神々は彼らにまず羊を与え、大麦も地上にはなかったのでこれまた与えました。人びとは農耕に励み、神々は太陽光を注ぎ、そこから植物が芽生えて豊かな実りをもたらします。シュメールの地は豊かになり、人びとは水中から地上に移動して粘土の家を建て、そこに住むようになります。また神々のために清浄な神座をたて、人も神もすべて豊かとなりました。

 というのがシュメールの創世神話。これがアッカドになると少々、というかだいぶ変わります。

 天も地もなく混沌があった頃、男神アプスーと女神ティアマト(それぞれ、「真水」「塩水」の意)だけがありました。ちなみにこの二柱の神は世界最初の「竜」でもあります。ティアマトは天地の間のすべてを生み出しました。男神ラフムと女神ラハム、その二神からまたアンシャルとキシャル、かれらが所謂別天つ神(ことあまつかみ)というべき存在で、アンシャルとキシャルから産まれたのが天神アヌでした。アヌの息子がエア(エンキ)で、全ての神々の中でもっとも傑出した力と知恵の持ち主でした。

 神々が増えてくるにつれ、アプスーはその騒々しさを煩わしく思うようになります。眠れらし亡いからどうにかしろとティアマトに言うのですが、ティアマトはわたしの子供たちですから、と優しくそれを諫めます。

 これを伝え聞いて驚き慌てた神々は恐慌状態に陥りますが、エア神だけは泰然自若、魔術でアプスーを眠らせ、殺してしまいます。この際エアはアプスーが纏っていた衣冠……最高神としての「神威」を奪い取って自らまとったとされます。とはいえこの神話の主人公はエンキではないのですが。

 やがてエンキの妻神ダムキナが身ごもり、息子マルドゥークを産みます。エアは大いに喜んでこの息子に普通の神の2倍の力を授けました。ゆえに4つの瞳と4つの耳、火を噴く口と輝く身体を持って、マルドゥークは成長します。大神アヌはマルドゥークに四つの嵐風を与え、マルドゥークはこれを戯れにティアマトに向けたので、ティアマトの勘気に触れました。他の神々もこの不遜に不愉快を表明し、ティアマトをたきつけるとティアマトは「よろしい、彼を殺せる怪物を造り、彼ら(アヌ・エンキ・ティアマト系の神々)と戦おう」と言います。ここに古き神と新しい神の戦いが始まります。

 ティアマトは無数の怪物、七岐大蛇ムシュマッヘー、毒蛇バシュム、蠍の尾を持つ竜ムシュフシュ、海獣ラハム、大獅子ウガルルム、狂犬ウリディンム、蠍人間ギルタブリ、魚人クリールなどなどを産み出し、彼ら息子の中でも最強のものキングーに軍勢司令官の地位を授け、彼を玉座に座らせるに当たって《天命のタブレット》というものを与えます。これはアヌンナキおよび下級神たちへの絶対統帥権を意味する者で、のちにアンズーという凶鳥がこれを神々から盗んで天界がパニックに陥るという話もありますが今のところは割愛。

 とにかく原初の女神である巨竜ティアマトと、司令官キングーは味方の神々を集め、戦いの準備を進めます。これと知ったエアは祖父アンシャルに「ティアマトとキングーがわたしたちを滅ぼそうとしております、どうしましょう?」と聞きますがアンシャルも当惑し、「お前がアプスーを殺したのが悪いのだ、ティアマトを宥めるほかなし」ということで息子の天神アヌを使者に立てるのですが、怒り狂うティアマト陣営は聞く耳持たず。かくなるうえは怪物とティアマトを倒すしかなく、それが可能なのはマルドゥークのみと。

 父から「ティアマトを宥め賺し、そして撃ち殺せ」という頼みを受けたマルドゥークは喜び、これは天界における自分の権力拡大のチャンス到来と、曾祖父アンシャルに「戦勝の暁には天命のタブレットをいただきたい」と乞い、容れられます。そして神々を集めて歓待して上機嫌にさせたマルドゥークは、彼らに天命を自分に与えることを約束させました。

 そしていよいよマルドゥーク出征。彼は弓と矢と三叉の鉾をとり、稲妻と燃える矢を取り、さらにはティアマトを拿捕するための網を取って出かけました。ティアマトの勇姿にほかの怪物やキングーはたちまち及び腰となりますが、ティアマトはマルドゥークをおそれません。「お前が天命の持ち主に選ばれるはずがない(神々は自分の味方である)」というティアマトに、マルドゥークは「愛を持つべきおまえが殺意をもつのか、資格を持たないのはキングーのほうである」といい、ここに両者の対決が始まります。

 マルドゥークは網を開いて凶風とともに投げつけ、ティアマトはこれを飲み込みます。暴風はティアマトの腹の中で荒れ狂い、腹を膨らませました。その腹めがけてマルドゥークが矢を放つと、腹が破れて鏃が心臓を貫き、ティアマトを打ち倒しました。

 ティアマトが死ぬとその配下の怪物と神々は戦うまでもなく恐れおののき、そのままマルドゥークの網に絡め取られます。そしてマルドゥークは捕えたキングーから天命のタブレットを奪い取り、自らの身につけて神々の主権者たる証を手にしました。

 その後、マルドゥークはティアマトの死骸から天と空と天水を造り、星と太陽と月をつくってその周期をさだめ、雲と雨と霧を創り、山をつくって川の流れを創りました。プラヌン側とイグディラト川は、ティアマトの両目から流れているそうです。そしてティアマトの尾を《天の結び目》につなぎ、最後に大地を創って天地の創世を完了しました。

 そして神々の王として認められたマルドゥークは神々から「何事も須くわれわれに命令されよ」と唱和され、「下界に神殿をつくり、わたしの王権を確かで末永いものにしたい。神々が集うとき、そこは安らぎの場となるだろう。そこをわたしはバーブ・イル(神の門。バビロン)と名付ける」と宣言、神々はこれを認め、「王よ、我々はあなたの下働きとなろう」。

 さらにマルドゥークは労働力として人間を創造しますが、その材料となったのはキングーでした。ティアマトについた神々と怪物の中で最も罪深い、ティアマトを唆したものは誰かということでつるし上げられたキングーは首を切られ、流れ出る血潮から最初の人びとが生み出されました。産まれたままの人間たちはただマルドゥークの命令に従い、神殿建設に奔走させられることになります。

 こちらがアッカドの創世神話で、シュメールのそれが牧歌的であんがい平和であるのに対し、こちらはずいぶん戦闘的な側面が押し出されています。まあ、アッカド人はのちに戦闘民族アッシリア人を生み出すベースでもありますから、神話も戦闘的なのでしょう。というか原初の神の死骸から天地を創造するというのは一種のパターンですね。世界各国あちこちに似たタイプの神話があります。

 今回メソポタミア神話はこれで終わりにして良いぐらいキリが良いのですが、他にアトラ・ハシース物語とギルガメシュ叙事詩くらいは紹介した方がいいでしょうか。ともかく、今回はこれで。

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