迫りくる正体不明の〝それ〟によって、じわりじわりともたらされる感情=恐怖みたいなイメージが個人的にはあるのだが、まさかまさかのクトゥルー神話なトンプスン「クロード・アーシュアの思念」、死の擬人化のボーモント「とむらいの唄」等、たっぷり〝それ〟を堪能させてくれる作品が並ぶ。
なかでも印象深かったのがブラックウッドの「木に愛された男」。キリスト教と自然崇拝的アニミズムの対立がテーマなのだが、同時に老境にさしかかった夫妻の心のすれ違いをも克明に描かれているのが良かった。
そういえば、この〝キリスト教とアニミズム、ペイガニズム等の対立〟を扱った作品、他にも少なからずあった気がする。ひょっとしたら、己らのキリスト教文化圏が周辺へと追いやってしまったものに対するある種の後ろめたさがその背景にあるのか、はたまた、単純に異教的な脅威を演出するための只の選択にすぎないのか、ちょっと気になるところではある。