皆様、おはようございます。白猫なおです。(=^・^=)
元聖女様は貧乏男爵家を立て直す! 「あなた達しっかりなさいませ、自分の人生は自分で切り開くものなのですよ」が100話到達致しました。有難うございます。
皆様からの応援や、励ましのお陰でここ迄来れました、本当にありがとうございます。読者様とコメントを通して交流できる楽しみも、味わう事が出来、とても感動しております。今後もニーナの活躍を見守って頂けると嬉しいです。では感謝の気持ちを込めまして、SSを贈らせて頂きます。(=^・^=)
【アルホンヌの理想の女性】
夕食を済ませた男闘呼組(男組)は、今ベンダー男爵家の離れである花の屋に集まり、酒を酌み交わしていた。
実はベランジェは魔獣酒造りの名手。
リンゲルガを使った、とっても滋養の有る(精力向上)贅沢な酒が出来上がり、皆で試飲会を開いていた。
グレイスがおつまみをせっせと用意し、美味しいお酒とおつまみに皆が酔いしれる。
ベンダー男爵家での生活は、毎日楽しくって仕方がない。
その上友人たちとの楽しい酒が入れば、自然と口も緩む。
年頃の男闘呼組が集まれば、話題に上がるのは勿論女性の話。
お酒に酔ったベランジェがうとうとし始めた時間には、恋バナが花開いていた。
「僕は―キノコちゃんみたいなー、女の子がタイプでーす。フフフ……絶対可愛いよねー」
「俺は……あんまり五月蠅くない人が良いな―、風呂とか着替えとか? 一週間ぐらい見逃してくれる人? どっかいないかなー」
チュルリとチャオの言葉を聞いて、普通の人なら「そんな人いませんね」と答えるところだが、アランも、ベルナールも、アルホンヌも酔っ払っている。
なので「いるいる、絶対見つかるよー」と適当な言葉を返す。
グレイスとファブリスがこの場にいたら突っ込んでくれそうだが、残念ながらグレイスはキッチンに、そしてファブリスは日課のニーナの見守りに行っている。
なのでそのまま話しは突き進んでいった。
「私は婚約者がずっといたので恋を知らない……恋する相手に出会ってみたいものだ……」
「私もです。どこかへ婿養子に入るものだと思っていましたので、自由になった今、素敵な恋をしてみたいですねー」
アランとベルナールが頬を染め、そんな事を呟く。
お酒で顔が赤いのか、恋について話しているから赤いのか、それは分からないが、二人も夢見るお年頃。
まだ見ぬ未来の恋人を想像し、呟いた。
だが、王子とその補佐の恋。
そこら辺の町娘相手では中々難しいだろう。
だからと言って貴族女性と……と言っても今の二人には難しい。
だが酔っ払い達はここでも「いるいる、絶対いるよー」と適当に答える。
皆の夢は広がるばかりだ。
そしてちょっと他の男闘呼組よりも経験値の高いアルホンヌが、ポツリと呟いた。
「俺はー、いっつも相手から告白されんだけどー、付き合うと何故かフラれるんだよなー、なんでだろう?」
「えーー? イケメン騎士のアルホンヌ様でもフラれるのー?」
「世の中の女性達は贅沢だなー、俺が女だったらぜってーアルホンヌ様と結婚するのによー」
アランもベルナールもうんうんと頷く。
皆の応援にアルホンヌは感動し涙する。
そしてどうしてフラれてしまうのかを分析をしようと、研究組二人が盛り上がった。
「アルホンヌ様ー。デートはどこへ行くんですかー?」
「それはやっぱり森だろう。魔獣を倒して一緒に食う。これこそ最っ高のデートだろう?」
「ああ、それは素敵だ」
「楽しそうですねー」
「だろだろ」
皆はうんうんと納得しているが、クラリッサの様な騎士の女性ならいざ知らず、普通の女性を魔獣の多く出る森へと連れて行くこと自体ドン引きだ。
残念ながらアルホンヌはそこに気付いていない。
そしてツッコミがいない話しはまだ続く。
「他には何処に行くんですかー?」
「ああ、王立図書館で武器の専門書を一緒に見たりするなー。武器について熱く語り合う。最高だろう?」
「あ、わっかるー。僕も彼女が出来たらキノコについて語り合いたい!」
「図書館ってのがロマンチックだなー。俺なら一ヶ月は籠って居られるぜ」
王立図書館。
デートには森よりはマシかもしれない。
だがアルホンヌと武器について語り合える女性など、クラリッサくらいしかいないだろう。
アルホンヌがフラれる訳はこの二つの質問で十分に分かる。
だが酔いどれ男闘呼組には全く分からない。
デートコースも申し分ない。
見た目は最高。
アルホンヌ様、もしかして女性の見た目に五月蠅いのかな? とそんな疑問が湧いた。
「アルホンヌ様、見た目は? どんな女性がタイプなんですか?」
「うん? 別に特別な美しさを俺は求めてないぜ。まあそうだなー、ディオン兄様が女の子だったら最高だったのになー」
「あー、分かっるー、ディオンくんは可愛いよねー」
「男の子だけどキュンとなるよなー」
ベンダー男爵家の長男ディオン。
無駄に顔面偏差値の高いディオン。
それぐらいの可愛さを求めたら……
世界中を回らなければ、アルホンヌの理想は見つからないだろう。
それにセラニーナに育てられたアルホンヌ。
そして姉と慕うのは、誰が見ても美しいと感じるシェリルとクラリッサ。
そう、美しく強い女性達ばかりの中で育ったアルホンヌは、知らず知らずのうちに理想の女性像がどんな高い山よりも高い物になっていた。
フラれる理由が「貴方にはついていけない」「貴方にはもっと違う相手が向いている」「貴方の横には立っていられない」だ。
だが、アルホンヌ自身はその事に全く気が付いていないのだった。
「クラリッサ様とはお付き合いをされないのですか?」
アランの純粋な言葉にアルホンヌはお酒を噴き出し、寝ているベランジェの顔にぶっかけた。
クラリッサはアルホンヌの中で、姉であり兄にも近い存在だ。
どうやっても女性には思えない。
色々と想像するだけで気持ち悪いと感じてしまうぐらいだった。
なのでないないと首を振り答える。
「クラリッサは姉貴だからなー。相手として見れないし……それに……」
皆がアルホンヌの視線を追うように、チラリとベランジェの顔を拭いているグレイスを見る。
クラリッサがグレイスに夢中なのは、グレイス以外皆が知っている。
クラリッサの好みのタイプがグレイスだとしたら、アルホンヌは当てはまらないだろう。
なのでクラリッサ抜きで、アルホンヌの理想の相手を皆が考える。
「うーん……森が好きで、魔獣が好きで、本が好きで、ディオンくん並に可愛い子かー……あー……それって……」
ニーナ様?
アルホンヌ以外皆そう思ったが、怖くって誰も口に出さない。
あんなに酔いが回っていたのに、それが一気に冷めた気もする。
ニーナ様が恋の相手?
アルホンヌ様の理想には一番近いかもしれないけれど……
それはどう考えても危険でしかない様な気がした男闘呼組一同だった。
「んあ? 皆急に黙ってどうしたんだ?」
「えーと……別に……その……そろそろお開きにしましょうか? ベランジェ様も寝ちゃってるしー」
「えっ? 俺の相手を探してくれるんじゃないのか?」
「えーと……それはまた今度にしましょう。ね、相手はまだ小さいですし」
「は? 小さい?」
「いやいやいや、ある意味巨大? ううん、とにかく危険なのでまた今度で」
「あっ、グレイス、片づけを手伝うよ」
「あ、僕も僕も」
「俺も」
「わ、私も……」
皆潮が引けるようにサーっとアルホンヌの傍からいなくなってしまった。
残されたアルホンヌは首を傾げ、寝ているベランジェを見る。
ベランジェもまたセラニーナに育てられ、姉であるシェリルや、妹であるクラリッサを見てきた不運な男。
ベランジェの理想のタイプは今やグレイスだが、一昔前は無意識にセラニーナだったことだろう。
アルホンヌもまた、本人の知らないうちに理想の女性像がセラニーナになっている不運な男。
彼の恋は一生叶う事が無いのかもしれない。
アルホンヌの理想の女性。
それはニーナ・ベンダーだと、アルホンヌ以外皆が気が付いた夜となったのだった。