こんばんは、白猫なおです。
沢山の応援有難うございます。皆様からの♡や☆いつも感謝しております。まだまだ拙い白猫の小説ですが、多くの方に応援して頂いて感謝しかございません。
日頃のお礼を込めまして、元聖女様は貧乏男爵家を立て直す! 「あなた達しっかりなさいませ、自分の人生は自分で切り開くものなのですよ」のSSを投稿させて頂きます。楽しんで頂けたら幸いです。(=^・^=)
【ベルナールのライバル】
ベルナールがベンダー男爵家に来て早一ヶ月。
ベンダー男爵家の使用人も、子供たちも、そして尊敬するニーナも、ベルナールに優しくしてくれる。
今ベルナールは、城にいた時よりもずっと穏やかな生活が送れている。
アランの従者だったベルナールは、城にいた当時の気苦労を思い浮かべ、今アランと共に穏やかに暮らせているこの生活に、幸せを感じていた。
ただ心配なのは両親の事だった。
ベルナールがアランの罪を虚偽だと訴えた時も、そしてアランについて行くと決めた時も、背中を押してくれたのは両親だった。
あの国で両親が無事か……それだけが心配だ。
もっと自分は強くならなければ……
両親が背中を押してくれたのは、アランを守れという事だとベルナールは思っていた。
そしてニーナに会ってその気持ちは尚更強いものになった。
アランを守りたい。
もう傷つけたくない。
そう思っているのだが……ベルナールは今、とある人物に全く勝てずにいた。
それが8歳の少女シェリーだ。
「ベルナールのお兄ちゃんおはよー」
ベルナールのライバルである(ベルナールのみそう思っている)シェリーに声を掛けられ、ベルナールはハッとし、シェリーに笑顔を向けようとしたところで、目を見開いた。
シェリーが何食わぬ顔で、空中をトコトコ歩いていたからだ。
同じ風魔法を使える人間としてそのすごさが分かる。
自分を空中に浮かせる。
ベルナールにはそれがまだできない。
いや、五センチぐらいなら浮かべる事は出来るだろう。
けれどシェリーのように空中を歩くなど、今のベルナールには到底無理だった。
「シェ、シェリー……その魔法は……」
「えへへ、お空歩くのって気持ちいいよねー、あたし……私、そのうちビューンってお空飛ぶんだー。だから今から練習してるのー」
「空を飛ぶ……?」
「うん、そうだよー。ニーナとね、ドラゴンさんを探そうねって約束したんだー。だからドラゴンさんぐらい早く飛べるようにならないとダメなんだよー」
あたしはまだまだなんだーと言いながら、平気な顔で空中を歩く少女。
目標はドラゴンの速さ……
それはどれ程の魔法の実力か……
シェリーとの魔法の力の差は開くばかり、それに何と言ってもベルナールは高所恐怖症。
まず空を高く飛びたいとはどうしても思えなかった。
そんな朝から敗北感をひしひしと味わっているベルナールに気付くことなく、シェリーは話を続けた。
「ベルナールのお兄ちゃんは草刈りが上手になったよねー」
「へっ?」
「あたしは、ベルナールのお兄ちゃんみたいに上手に草刈れないもん。ニーナなんか葉っぱが勝手に抜けてくれるんだよー、凄いよねー」
「いえ、ニーナ様はそもそも存在が違い過ぎますから……それに私から見ればシェリーも十分に素晴らしいですよ」
「えっ? 本当? ベルナールのお兄ちゃんそう思うの?」
「はい、シェリーは素晴らしいです」
えへへへへーと可愛く笑うシェリーを見て、あんな規格外の妹が傍にいたらシェリーも劣等感を抱えて当然だなとベルナールは思った。
けれどシェリーにはシェリーの良さがある。
そしてベルナールにはベルナールの良さがある。
人と比べず自分を高めて行こう、ベルナールはシェリーに褒められ、そしてニーナへの気持ちを聞いて、そう思えた。
「ベルナールのお兄ちゃん、朝ご飯どっちが沢山食べられるか競争しようよー」
「ははは、良いですよ。ですが流石にシェリーには負けませんよ」
「じゃあ、買った方がニーナの作ったおやつ貰う約束ねー」
シェリーとベルナールは手を繋ぎ食堂に着いた。
そしてシェリーはふわりと自分の席に着地する。
シェリーに魔法は敵わないかもしれない。
けれど自分にしかできないこともきっとある。
そう思い、ベルナールは今日も美味しいベンダー男爵家の朝食に手を付けたのだった。
ただし……元々小食のベルナールがシェリーに食べる量でも勝てることは無く。
結局ニーナが作った美味しいプリンはシェリーのものとなった。
8歳児の少女に食べる量でも負けた……
情けなさが込み上げる。
やっぱりシェリーには負けたくない!
密かに食べる訓練も始めようと思うベルナールだった。
【グレイスの忙しい毎日】
第16事務課のグレイスは、まだ一年目の新米事務官だ。
そんなグレイスは第16事務課にいつも一番に出勤をする。
そして先ずは事務所内の掃除から始める。
これは強制でもなんでも無く、グレイスが綺麗好きと言う事がある。
仕事場は美しく。
整理整頓。
気持ち良く!
それをモットーにグレイスは第16事務課を隅々まで綺麗にして行く。
チュルリとチャオが (仕事してないぐらい綺麗な部屋)と感じたのも、こんなグレイスの毎日の努力の賜物から来ていた。
そして掃除が終わったグレイスは、第16事務課の花瓶の水を変えに行く。
この時掃除のおばちゃん達と会話をするのもグレイスの日課だ。
「美味しいお菓子屋さんが出来たらしいのよ、グレイス君知ってるー?」
「いやー、あんまり街には行かないからねー」
「そうよねー、事務課は忙しいものねー」
「おばちゃん達だって毎日大変じゃないですか。城の仕事と家の仕事もあるんでしょう。本当、尊敬しますよ」
「グレイス君!」
「無理はしないでくださいね。何かあったら言って下さい。手伝いますからねー」
おばちゃん達はキュンッとなる。
こんな優しい事を言ってくれる事務官はグレイスぐらいだ。
先日緊急課に掃除に行った時なんかは、イライラしていたのか、職員に八つ当たりをされた。
威張った貴族の多い城の中で、グレイスはこんな風にあちこちで癒しを与えていた。
おばちゃん達のアイドル。
それがグレイスだった。
そして第16事務課の職員が揃った頃、グレイスは皆にお茶を入れる。
これも強制ではない。
グレイスが自主的にやっている事だ。
実は底辺課の第16事務課に回って来る茶葉は、城の余り物ばかりなのだ。
良くても一年前の茶葉、ジャンケンで課長が負けると二、三年前の茶葉が渡される時もある。
そんな茶葉でもなんとか人が飲める程度の味に持って行けるのは、第16事務課ではグレイスだけなのだ。
チュルリとチャオは不味いと思っていたが、アレでもグレイスの努力の成果で人が飲めるものになっているのだ。
多分他の下っ端課のお茶は、お茶とも呼べない状態の物になっているだろう。
ここでもグレイスの優秀さは良く分かるのだった。
そして次にグレイスは皆から頼まれる雑用を済ませる。
グレイスの仕事は早く正解な為、自分でやれよと思う様な、細かな事まで頼まれる。
だがグレイスは嫌な顔などしない。
王城で働けている。
その事が幸せだった。
そしてお昼前になると今度は手紙の仕分けだ。
最初はグレイスを含め五人の事務官で担当していたのだが、グレイスの仕事の速さに、いつしか一人で任される様になっていた。
そう、グレイスは平民なのに事務官になれた優秀な男。
つまり……補佐官が欲しかったベランジェに目をつけられた、と言う訳だ。
ベランジェが初めてグレイスに興味を持ったのは、ニーナ・ベンダーからの葉書の件があったからだった。
何故あの子だけが葉書を引き寄せたのか。
他にも手紙に携わった人間はいたはず。
葉書がグレイスを選んだ?
ベランジェはそうだと理解した。
「チュルリ、チャオ、あの子の事どう思う?」
「えー? あの子ってグリグリですかー?」
「ベランジェ様、グレグレに興味もったんすか?」
そんな呑気な返答をしたチュルリとチャオの答えは、グレイスは多分仕事が出来る人! だった。
それを聞いてベランジェの気持ちは固まった。
そうなれば即行動だ。
「チュルリ、チャオ、グレイス君をあとで連れて来てね」と……気軽に頼む。
チュルリとチャオが緊急課に向かったところで、ベランジェは人事課に声を掛けた。
第16事務課のグレイスをすぐさま自分の補佐に!
そう依頼すると、人事課の課長は驚いていた。
特筆する物など何も持たないただの事務官。
ベランジェ様が何故そんなものを補佐官に?
だが、その質問はベランジェにかけられる事は無く、グレイスの異動は瞬時に決まった。
そう、知らぬはグレイスのみ。
はてさてグレイスにはどんな未来が待っているのか。
ベランジェに目を付けられたグレイスは、きっとこれからニーナ・ベンダーにも会う事になるだろう。
既に優秀な彼の成長も、実はこれからなのかもしれない。
平民出身の優秀な事務官グレイス。
彼の今後は楽しみでもあるのだった。